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女子レスリング53キロ級の藤波が初出場の五輪で圧倒的な強さを示して金メダルを獲得した(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)
女子レスリング53キロ級の藤波が初出場の五輪で圧倒的な強さを示して金メダルを獲得した(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

167連勝でパリ五輪金メダルの藤波朱理は“霊長類最強女子”を超えることができるのか…「簡単ではないがまだまだ向上できる」

 この独特の組み手は、「もともとローシングルを得意としていて、それを生かすために生み出されたものなのでは」と小林氏は分析する。
「ツーオンワンは本来、相手をコントロールするための道具なのですが、いまの藤波選手の場合は、完全に相手の動きを制御するよりも、タックルへ入るためのタイミングづくりとして機能しています。もし、相手の腕を完全に決める組み手だとしたら、今ほどタックルへ入りやすい形をつくれないかもしれない、絶妙な組み手をしていると言えます」
 自在に左右をスイッチする「ツーオンワン」は対戦相手にしてみれば厄介でしかない。その結果が、今回も次々と得点へ繋がったタックルだ。小林氏も、選手だったら「当たりたくないタイプ」だと言う。
「男子選手でも、あれだけ起用に左右交互にツーオンワンを決める人は滅多にいません。普通は、自分の構えによって右もしくは左のどちらかに偏るものです。自分が選手だったら、対処法を知っていても、そういう選手とは正直なところ試合をしたくないです」
 センスがないと、こういう動きはできない。もちろん器用さだけでなく、努力を積み重ねられるからこそのものだ。
 連勝記録を「167」に伸ばした藤波は、まだ20歳だ。年齢的には4年後のロス五輪の連覇だけでなく、3連覇、あるいは4連覇も狙えるだろう。3連覇の吉田沙保里氏、4連覇の伊調馨氏を超えることは可能なのか。
「今回は素材だけで優勝したと言ってもよい状態です。伸びしろがいくらでもあって、まだまだ向上できます。今の戦い方を見ていると、器用なうえにコツコツ努力を続けられる選手だということが分かるので、これからが楽しみです。伊調や吉田が活躍した当時より女子に力を入れる国が増えてきて、分析能力が高いスタッフも加わっていると聞くので簡単ではないと思いますが、次の五輪、その次と可能性はあります」
 小林氏は、そう断言した。
 ただ世界のライバル達は“打倒”藤波に全力を傾けてくる。
 小林氏は“新霊長類最強女子”を襲名するための課題をこうあげた。
「ツーオンワンをかけても、腕を決められたまま振り回してくるような力が強い選手が、女子にも今後は出現する可能性があります。そうなると、左右にスイッチできるという特性があまり生かせなくなってきます。今はローシングルとアンクルホールドを中心に得点していますが、グラウンドでも上半身を使った攻めを、腕取りからのネルソン、横くずしなども選べるようになると、もっと短時間で得点できて強みが増えます」
 勝てているから、今のやり方でよいと満足するタイプの選手もいる。だが、決勝の試合直後に藤波は笑顔で対戦相手と抱擁をかわしその理由を「自分を奮い立たせてくれる選手だったから、ありがとうを伝えたかった」とした。そんな金メダリストならきっと最強を追求する研鑽を続けるだろう。

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