「まだレスリング王国ニッポン復活とは呼べない」樋口と櫻井のパリ五輪“W金“で”メダルラッシュも元オリンピアンが太鼓判を押せない理由とは?
パリ五輪の男女レスリングでW金メダリストが誕生した。男子フリースタイル57キロ級で、樋口黎(ミキハウス)、女子57キロ級で櫻井つぐみ(育英大)がそれぞれ金メダルを獲得した。日本は4日連続の金メダル獲得で、グレコローマン60キロ級で文田健一郎(ミキハウス)、同77キロ級で日下尚(日体大)、女子53キロ級で藤波朱理(日体大)が金メダルを獲得しており金5個、銅2つの“メダルラッシュ”。“レスリング王国“ニッポンの復活と呼んでいいのか。ソウル五輪フリースタイル48キロ級の金メダリストの小林孝至氏に意見を聞いた。
樋口はワンチャンスで接戦をモノにし櫻井は圧勝劇
4人目の金メダリストは雪辱に燃える樋口だった。
1回戦は対戦相手が計量に参加しなかったため不戦勝、準々決勝はクルス(プエルトリコ)に12-2のテクニカルスペリオリティー勝ち、準決勝アマン(インド)では背負い投げで4点を先制するなどして10-0のテクニカルスペリオリティー勝ち。決勝では、タックルを警戒するリー(米国)を攻めあぐね、場外へ二度、押し出されて2-0で第1ピリオドを追えた。第2ピリオドでタックルを決め2-2としビッグポイント差でリード、終盤で逆転を狙って前進してきたリーの推進力を利用して逆に2点を追加し4-2で優勝した。
「金メダルをとるまで簡単な道のりでは無かった。たくさん負けて、計量失格して、自分が絶対に金メダルを取れると思って信じてきました」
東京五輪はアジア予選で50グラムの計量オーバーで失格となり代表の座を逃した。リオ五輪の銀メダリストがその悔しを晴らすのに8年を要した。パリの決勝の戦いも、その苦難の道を示すように簡単ではなかった。
元金メダリストの小林氏は「相手がかなり樋口のことを研究してきた様子でした」と、先制され、追いかける展開になった理由を解説する。
「構えをすごく低くして、タックルに入られない防御の姿勢を相手は強く出してきました。あの姿勢はとても負担が大きいので、試合の後半になったら少しずつ構えが高くなってきました。その隙を見て樋口選手はタックルに入り得点。ワンチャンスを確実に点に結びつけました」
樋口の勝利から約2時間後、女子57キロ級の決勝で櫻井が、ニキタ(モルドバ)を6-0で下して優勝した。5人目の金メダリストである。
今大会は初戦から安定した戦いぶりだった。1回戦のテイラー(カナダ)には6―1の判定勝ち、準々決勝ではメレンドレス(エクアドル)に11-0でフォール勝ち。準決勝は、2016年リオデ五輪で吉田沙保里氏に勝って連覇を阻止した金メダリストのマルーリス(米国)を相手に2点を先制されたが、相手の得意技をカウンターで返して、逆に投げて4得点する大逆転で10-4勝利していた。小林氏は、「自分の間合いを崩さない組み手を続けられた」ことを勝因のひとつと分析した。
「櫻井選手も、藤波選手のようにツーオンワンと呼ばれる、相手の片腕を両手で制する組み手から展開する試合運びが特徴です。ただ、藤波選手と違って、桜井選手は左だけにかけます。藤波選手は相手の間合いになってもその流れにのるようにして進めますが、桜井選手は自分の間合いペースのまますすめるのが得意です」
自分の間合いに持ち込み、相手の隙をみてタックルに入るのが、櫻井が得意とする必勝パターンだ。