「まだレスリング王国ニッポン復活とは呼べない」樋口と櫻井のパリ五輪“W金“で”メダルラッシュも元オリンピアンが太鼓判を押せない理由とは?
「飛び込んで入る片足タックルが得意でベースになっているようですね。おそらく、ちびっ子レスリングのときに教わったものをブラッシュアップして今の形あるのでしょう。まだ22歳と若い選手ですが、レスリング歴で考えると20年近い大ベテラン。日本は世界でもっともちびっ子レスリングが盛んだと言われていますが、そのおかげで若いけれどレスリングはベテランという選手が多く、経験のアドバンテージも勝因のひとつですね」と小林氏は分析した。
すでに金5つ、銅2つとメダルラッシュを実現した日本に対し“レスリング王国”復活の声がある。だが、小林氏は「まだそれを判断する時期ではない」と慎重な意見を口にした。
「今回の五輪は東京五輪のために準備していたにも関わらずコロナ禍のために発揮しきれず貯まっていたものをいっきに放出しているという側面があります。だから通常の五輪ではない。金メダルが続くこの現象は一時的なことかもしれません」
小林氏は東京五輪前からの準備がパリに生きているとの見方を示した。
もうひとつ小林氏は、レスリング王国復活と断言できない理由に「ロシアが参加していないこと」を付け加えた。
「ロシアが参加していなくても金メダルは価値あるものですが、日本のレスリングの立ち位置が、世界のどの段階にあるのかという判断においてロシアの不在は無視できません」
ロシアは金メダルの常連国。フリースタイルとグレコローマン、つまり男子レスリングの世界では常に上位に入り、東京五輪では金4、銅4を獲得している。
「日本がレスリング王国と呼べるにふさわしいかどうかは、次のロサンゼルス五輪まで判断を待ちたいですね。現役選手の活躍は、もちろん、今回、活躍した選手が一線を退いていたとして、技術や知識の継承にどのように関わっているかなどセカンドキャリアの面も含めて、そこを確認してから判断したいです」
小林氏が語るように、世界でしのぎを削った経験を持つにもかかわらず、その知見を継承できる環境が、まだ日本では十分にあるとは言いがたい。パリ五輪の結果だけでなく、それがどのように受け継がれるかが重要で、そこが充実してはじめて「レスリング王国」復活だと誇りを持って呼べるのだろう。