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性別騒動に巻き込まれたケリフ(アルジェリア)が苦難を乗り越えて金メダルを獲得。敗れた楊柳(左・中国)もスポーツマンシップにのっとり健闘を称えた(写真:新華社/アフロ)
性別騒動に巻き込まれたケリフ(アルジェリア)が苦難を乗り越えて金メダルを獲得。敗れた楊柳(左・中国)もスポーツマンシップにのっとり健闘を称えた(写真:新華社/アフロ)

「彼女から学ぶことがある」パリ五輪で性別騒動のケリフに敗れた銀メダル中国人ボクサーは侮辱行動はせずリスペクトの意を伝える

 もうひとりの性別騒動に巻き込まれた女子57キロ級決勝に進出している台湾のリン・ユーチンの対戦相手は、準々決勝、準決勝と続けて、試合後のリング上で指で「X」の文字を作る侮辱的なパフォーマンスを行った。「私は女性だ」「女性としか戦いたくない」との抗議の意味を込めて一般的に女性が持つ「XX」染色体の「X」を示したと見られるが、それは抗議ではなく負けた腹いせの侮辱的行動。
 だが、この日、楊柳は、そんなパフォーマンスは一切行わず、表彰式では、銅メダルの2人のボクサーも含めて、4人が一緒に肩を抱き合って輪を作り、記念撮影に収まるなど、メダルの色こそ違えど、互いの健闘を称え合った。
 米NBCニュースによると、楊柳は「女性同士の公正な戦いと感じたか?」の質問に直接は答えず、「外で何が起こっているのか、あまり意識していませんでした。私の対戦相手は、並外れたライバルで、彼女は非常によく戦った。彼女から学ばなければならないことはたくさんあります」と、リスペクトを込めた素晴らしいコメントを残した。
 IOC(国際オリンピック委員会)から、不正のまかり通る不透明なガバナンス不備を理由に五輪から排除されているIBA(国際ボクシング協会)が、昨年の女子世界選手権で、ケリフが性別適格性検査で、一般的に男性が持つ「XY」染色体が検出されたとの理由で失格処分にしたことを明かしたことが、今回の性別騒動の発端となった。2回戦では、パンチを浴びた対戦相手のアンジェラ・カリニ(イタリア)が、開始46秒で棄権するという異例の展開となり、イタリアのメローニ首相が、「フェアな試合じゃなかった。男性の遺伝的特徴を持つ選手は女子競技に参加すべきではないと思う」とコメント。思わぬ“逆風”にさらされ、SNS上でも誹謗中傷が殺到した。だが、IOCは、「全ての選手が大会の出場資格とエントリー規則に従っており、医学的規則にも全て適格である。選手のジェンダーと年齢はパスポートに基づく」との方針を明かした上で「全ての人間に差別を受けることなくスポーツを行う権利がある」との声明を出し、3日にはトーマス・バッハ会長が会見を開いた。
「2人が女性であることに疑いはない」と明言。2人が、ジェンダーではなく出生時から女性としての戸籍を持っていることを改めて説明し「ヘイトスピーチは許されない」との態度を明確にした。
 ケリフも「私にはこの大会に参加する資格が十分にある。私は他の女性と同じように女性です。私は女性として生まれ、女性として生きてきた」と訴えた。
 米ESPNによると、ケリフは金メダルを獲得した試合後の取材で足を引っ張り続けたIBAや誹謗中傷を続けた人たちに向けて強烈な言葉を伝えたという。
「私は、この金メダルで彼らにひとつのメッセージを送りました。それは私の尊厳と名誉が何よりも重要であるというメッセージです」
 とても重たく大切なメッセージだった。
 台湾のリンは明日決勝のリングに向かう。

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