なぜパリ五輪男子マラソンで“無印”赤﨑暁がメダル争いを演じる6位入賞の走りができたのか…史上最難関コースと箱根駅伝から磨いた入念な“坂”対策
MGCで日本代表が内定した赤﨑と小山は昨年11月にパリ五輪のコースを試走。本番に向けて、徹底的な対策を練ってきたのだ(一方、アフリカ勢のスピードランナーが苦戦したのはコース対策が十分できなかった可能性がある)。
パリ五輪はスタートから15㎞過ぎまではフラットだが、石畳やカーブ、細いトンネルがあり、ペースを上げにくい。
一方で、15㎞過ぎから20㎞過ぎまで上りが続き、その後は28㎞手前まで緩やかな下りとなる。そして28.5㎞から29㎞にかけて最大勾配13.5%の急坂が待ち構えている。これは箱根駅伝の山区間に近い勾配だ。レース中盤のアップダウンをいかに乗り切り、ラスト勝負に向かうかがコース攻略のポイントだった。
赤﨑は6月中旬から7月上旬まで岐阜・御岳、7月中旬から8月上旬まで長野・東御で高地合宿を敢行。パリ五輪に向けて、坂道を徹底的に走り込できた。
「起伏のあるコースで距離走をやりましたし、約10㎞続く上り坂も走りました。スピード練習で800mの坂を10本というメニューもこなしました。ジョグでも坂の方に行くなど、本当に坂ばかり走ってきたんです。何度も『とまりたい』『もうやめたい』と思いましたが、ここでやらなきゃオリンピックは戦えないという気持ちで乗り越えてきました」
赤﨑は拓大時代に箱根駅伝に4年連続で出場しているが、そのうち下りの3区を2度任されている(2年時に区間10位、4年時に区間9位)。本人も「上りより下りの方が好き」と話していたが、パリ五輪では上り坂トレーニングの成果を存分に発揮したかたちだ。
そして赤﨑の魅力はスピードにある。マラソン練習に入る前には、5月3日の日本選手権10000mに参戦して、27分43秒84(7位)の自己ベストをマークした。昨年7月のホクレン・ディスタンスチャレンジ北見大会5000mAでは三浦龍司の後ろにピタリとつけると、残り1周で圧巻のスパートを披露。ブダペスト世界選手権の3000mで6位入賞を果たすことになる三浦を突き放して、13分28秒70でトップを飾っているのだ。
赤﨑は綾部健二総監督から「2時間5分、6分台が出るくらいの練習はしてきている」と言われていたが、その実力、ポテンシャルは本物だ。記録を狙えるレースに出場することになれば、今回、メダルを獲得した選手たちと同じくらいの自己ベストを叩き出してもおかしくないだろう。
テレビ解説を務めた金哲彦氏も「赤﨑選手はスピードもありますから、おそらく日本記録や2時間3分台に突入する選手になって、日本マラソン界を牽引するでしょう」と大きな期待を寄せている。
パリ五輪で入賞を果たしたことで、来年9月に開催される東京世界選手権の代表が内定した赤﨑。次は日本記録(2時間04分56秒)の更新か。それとも世界大会のメダル獲得か。パリの舞台から飛び出した日本マラソン界の〝新エース〟から目が離せない。
(文責・酒井政人/スポーツライター)