9.3WBO世界戦に向け比嘉大吾が“ムエタイの至宝”吉成名高との異種格闘技スパーで元K-1王者でもある武居対策に万全の構え
比嘉にとって6年5か月ぶりの世界戦舞台である。
「あっという間だった」
2018年4月にクリストファー・ロサレスを迎えてのWBCフライ級王座のV3戦の前日計量で900グラムの体重超過を犯して王座を剥奪された。当日体重に条件をつけて実施された試合でも9回TKO負けを喫し、その後、無期限のライセンス停止処分を受けた。2年後に再起して、ここまで8試合を消化してきたが、その間、元日本バンタム級王者の堤聖也(角海老宝石)とは引き分け、現IBF世界バンタム級王者の西田凌佑(六島)には判定で敗れ、WBOアジアパシフィック王座を失った。
だが、野木トレーナーは「復帰後、初めて気持ちが体についてきた。過去の比嘉は参考にならない」と比嘉が“完全復活”したと断言する。
実は、この世界戦が決まる前に“ある出来事”があったという。
公開練習で披露をしたトレッドミルを使った地獄のサンドバッグインターバルトレーニングの最中に比嘉が、ふと「自分に勝つって気持ちいいっすね」とつぶやいたのだ。野木トレーナーはその一言を聞き逃さなかった。
「天からぶら下がってきた1本の糸に感じた」
比嘉の致命的な欠点は気持ちにムラがあることだった。
「練習がきついと投げ出したり、やらなかったりした」
才能を持て余していた。
だが、世界ランキングが上昇して世界戦の可能性が現実化しつつあった状況に比嘉の心に変化が生まれ始めていた。
「計量オーバーのトラウマから、ようやく脱却したのかも」と感じた野木トレーナーは頃合いを見て比嘉を喫茶店に呼び出した。
「ここから本腰を入れていこう」
比嘉も「あのときからかな。頑張ろうと。(6年前と)何も変わっていないんだけど、もしかして変わったのは、それかも」と振り返る。
バンタム級に階級を上げてからは「破壊力がなくなった」と厳しい見方をされていた。だが、フライ級時代に15試合連続KO勝利の日本タイ記録を作った頃の破壊力のあるパンチ力が蘇ってきたという。
「ミットを受けている僕にしかわからない感覚だが、気持ちが入ったパンチと、そうでないパンチではビックリするくらい違う。これが大吾のパンチだな、と、フライ級が懐かしいなという本来のパンチ。これまでとはまったく違う」
野木トレーナーがそう証言した。