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阪神の藤川球児新監督はあえて就任会見で具体的なビジョンを語らなかった(写真:西村尚己/アフロスポーツ)
阪神の藤川球児新監督はあえて就任会見で具体的なビジョンを語らなかった(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

なぜ阪神の藤川球児新監督は就任会見で具体的な優勝ビジョンを語らなかったのか?

 阪神の藤川球児氏(44)の新監督就任が正式決定して会見も行われた。現役時代に“火の玉ストレート”を武器に阪神で通算243セーブをあげた藤川新監督は「うまくいかないことがあると周りが言うかもしれないが僕は大丈夫だと思っている」との自信をのぞかせ「勝ちにいく」と宣言した。だが、その一方で、コーチングスタッフとの意見のすり合わせが終わっていないことを理由に具体的なビジョンは語らなかった。コミュニケーションと“信頼”を重要視していこうとする藤川新監督の姿勢の表れだろう。また監督交代後に起きるハレーションに対策を講じる考えがあることも明かした。今日17日には宮崎のフェニックスリーグを視察する予定だ。

 岡田監督からもらった「22」の背番号で指揮を執る

「これも運命なのかな」
 1998年に高知商からドラフト1位で阪神に入団した際の2軍監督が岡田監督の1年目。そして背番号を「92」から「22」に変えたことも、戦力外になりかけていた藤川をチームに引き留め、先発からリリーフへ転向させたのも岡田監督だった。26年の歳月ののち、その岡田監督から監督のバントを受け継ぐことになった。
 「自然」「すべてが必然」「阪神タイガース90周年の流れ」
 藤川新監督は、大きな人生の節目をそういう言葉で表現をした。
 コーチ経験がないことや、監督として成功例の少ない「投手出身」であることなど不安要素はある。だが、藤川新監督には成功への確信がある。
「タイガースに18歳で入って、アメリカに行ったり、自分で選択して独立リーグに入ったりとかしている中で、自分の下す決断に少しずつ自信が持てるようになり、どんな道を選んでも自分なら正解にできるんじゃないか、というのが自分の自信にもつながっている。うまくいかないことがあると周りは言うかもしれないが、僕はどちらにしても大丈夫だと思っている。自分の決断に間違いはない」
 そう言い切った。
 そして「当然、勝ちにいく」と公約した。
 前任者の岡田監督が2023年に優勝&日本一を果たして、今季も最後まで巨人と優勝を争ったチームの現状を「チームは成熟期にある」と分析。
「3点ほど取ったらゲームをきっちりと終わらせてくれる。安定の野球。そこは一番ベースになる」との基本構想は明かした。しかし、さらに突っ込んだ具体的なビジョンは、あえて語らなかった。就任会見では異例と言っていいだろう。
「あまり言いたくない。戦う前に。新たに就任する監督であってコーチともまだビジョンを組んでいない。その段階でメッセージとして固まってしまうことは正直控えたい」
 理由はまだ正式発表のされていないコーチ陣とビジョンのすり合わせを行っていないこと、その背景には、藤川新監督が「担当部署分けをしながら、みんなで主体的に動いてもらって、それを吸い上げる形で決断を下してグラウンドで最高のものを他球団と勝負する」と明かした理想の指導体制がある。
 藤川新監督は、自分に足りないものを自覚した上で、担当コーチそれぞれに明確な責任を持たせ、英知を集結し、コーチ陣と信頼関係を築き、戦う集団としての一体感を作ろうしている。ヘッドという肩書をつけた“参謀”は置かず、楽天時代に1軍作戦コーチの経験がある2軍バッテリーコーチの野村克則氏や、岡田体制で三塁コーチを任されていた藤本敦士内野守備走塁コーチらをチーフ格に、よりコミュニケーションを密にした形でチームを運営しようと考えている。具体的なビジョンは、3日間ほど、集中的に時間をかけて行うコーチ会議の後に「それぞれの担当コーチに聞いて下さい」と言うのだ。
 来季も岩崎優とゲラのWストッパー体制で臨むのか。エラーを23個もした佐藤輝明に引き続き三塁を守らせるのか。打順はどうするのか。5、6月に低迷した打線のテコ入れ策はどう考えているのか。捕手は梅野隆太郎と坂本誠志郎のどちらが主軸となるのか…など確認すべき新監督の構想は多いが、もしこの就任会見の場で、あれこれと指針を示してしまえば、コーチ陣の主体性を殺してしまうことになる。もし考え方が違った場合にいきなり齟齬が起きる危険性もある。だから、あえて会見で具体的なビジョンを語らなかったのだろう。

 

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