なぜ6万人を超える大観衆で埋まった名古屋vs新潟のルヴァン杯決勝が歴史的名勝負となったのか?
谷口に代えて投入した小見が、松橋監督からかけられた言葉を明かす。
「監督から『1点を取ったら、流れが変わる』と言われていたなかで、(谷口)海斗くんがゴールを決めてくれた。そして『若い力でひっくり返してこい』と」
6分が表示された後半アディショナルタイムに、ドラマは起こった。
ペナルティーエリア内の左で縦へ仕掛けた小見を、名古屋のMF中山克広(28)が倒す。ファウルなしで流された直後にVARが介入。福島孝一郎主審(40)によるOFR(オンフィールド・レビュー)をへて、判定がPKに変更された。時計の針はこのとき、アディショナルタイムを大幅に超えて後半56分を回ろうとしていた。
決めれば延長戦に突入し、外せば敗戦が決まる運命のPK。約30回も足踏みする独特の助走からゴール右隅へ流し込んだ小見は、名古屋に再び勝ち越されて迎えた延長後半6分にも、長倉のスルーパスを今後は左足で同点ゴールに変えた。
迎えたPK戦でラストの5番手を務めた小見は、大胆不敵にも試合中に決めたコースへ再びボールを突き刺す。直後に名古屋のFW山岸祐也(31)も決めて、死闘に終止符が打たれた試合後には、悔しさを押し殺しながらこんな言葉を残している。
「ここ最近、分のパフォーマンスがうまくいっていなかったけど、調子が悪いなどと言っていたら何も変わらない。自分に対して『ひと皮むけるなら、今日しかない』と言い聞かせて臨んだなかで、サッカー人生で一番楽しい日になりました」
通算5個目の国内三大タイトルを手にした名古屋だが、セレッソ大阪を2-0で破った2021年大会のルヴァンカップ決勝から、今回も引き続きプレーしたフィールドプレイヤーは、実はMF稲垣祥(32)しかいいない。
指揮官も長谷川健太監督(59)に代わるなど、新陳代謝が進められた名古屋を支えてきた3年前のMVPは、試合後にこんな言葉を残しながら笑った。
「今回は本当にストーリーがいろいろとありすぎました」
悲願の初戴冠を目指して、チームとファン・サポーターが一体になった新潟もストーリーのひとつ。ゴール裏スタンドから感じ続けたプレッシャーに「さすがは新潟さんというか、ものすごいものがあった」と敬意を表しながら、自チームへ目を移した。
名古屋の至高のストーリーは、キャプテンの守護神ランゲラック(36)となる。
2018シーズンから名古屋のゴールマウスを守ってきたランゲラックは、すでに今シーズン限りでの退団を表明。獲得できる可能性が唯一、残されていたルヴァンカップを優先させて母国オーストラリア代表への復帰要請に断りを入れ、アジア最終予選の期間中だった10月に行われた横浜F・マリノスとの準決勝でもプレーした。