なぜV2戦を前にWBO王者の武居由樹は対戦を熱望する那須川天心に「もう1本ベルトを持って来い」と過激な要求を突きつけたのか?
プロボクシングのWBO世界バンタム級王者の武居由樹(28、大橋)が5日、大橋ジムで、24日に有明アリーナで井上尚弥(31、大橋)の防衛戦のセミファイナルとして行われる同級10位のユッタポン・トンデイ(31、タイ)とのV2戦への公開練習を行った。同じキック出身のWBOアジアパシフィック同級王者の那須川天心(26、帝拳)との早期対決を熱望していたが「まだ待って」の発言があり「ふられたかな。ガッカリ。待つならもう1本ベルトを持ってこい」と珍しく過激なメッセージを送った。天心戦の気運を高めるためにも求められるのは、まだ世界戦では経験のないKO勝利。「1ラウンドから倒しにいく」とKO防衛を宣言した。
野性味あふれる武居の姿を
「KOに飢えている」
クリスマスイブのV2戦に向けて武居が本心を明かす。
5月に東京ドームでジェイソン・モロニー(豪州)からWBOのベルトを奪った世界戦は最終ラウンドにグロッキー寸前に追い詰められる激闘だった。9月のV1戦は元WBC世界フライ級王者の“倒し屋”比嘉大吾(志成)に11ラウンドにダウンを奪われる熱闘になった。内容より結果。「勝つことだけに集中した」(八重樫東トレーナー)戦いだった。KO勝利できなかったことを誰も問題にはしていない。
だが、武居は「判定勝ちには納得していない」という。
それゆえV2戦のテーマは明確だ。
武居は「自分らしく」と表現した。
「ここ2戦は受け身。ボクシングをしすぎた。考えすぎるとつまんない試合になる。(デビューして)最初の頃は1ラウンドから倒しにいく気持ちがあったが、ここ2戦は、タイミングで倒そうと考えていた。前戦(比嘉)では、自分からいったのは最終ラウンドだけ。それが自分らしさ。1ラウンドから倒しにいった方がいい」
八重樫トレーナーは「倒す気概を持ってリングに上がること」とした。
「武居の従来のパワー、破壊力が出る試合になればいい。本来のアグレッシブな戦いをして攻めにいく。もっと自由に、野性味のあふれる武居が帰ってこられるように調整中」
しかし、今回の相手は一筋縄ではいかないタイ人である。ジム内での試合を戦績に付け加えたりすることもあるタイのボクサーで31歳の割には、15戦とキャリアが少ないが、9KOで無敗。小柄だがパワフルで、一発一発、力のこもったパンチを打ち込んでくる。スピードに欠けるが、ムエタイの下地のあるタイ人らしくアップライトの構えからスウェーバックを駆使するなどディフェンスの反応も悪くない。
アマチュア時代には国際大会で優勝しており、2012年ロンドン五輪フライ級、2016年リオ五輪バンタム級で連続金メダルを獲得して井上尚弥に挑戦状を叩きつけている前WBO世界フェザー級王者のロベイシ・ラミレス(キューバ)に勝利したことがあるという。
しかも、武居はタイのファイターに苦手意識がある。
「K-1時代もいい内容じゃない。タイ人独特のリズムに合わせてしまってズルズルと判定までいった」
K-1時代にムエタイの選手と3度対戦しているがいずれも判定決着。3度タイ合宿にも出かけているが、小学生の頃には、タイのトレーナーらに「セミを食え」といじめられた経験があり「それがトラウマになっている」と笑う。
「ここで全部を払拭したい。相手は独特のリズム。早いパンチが出てきたり、もらわない技術も高い。どうやってパンチを当てていくか。もらわないように気をつけながら倒しにいきたい」
八重樫トレーナーはKO勝利に導くポイントをこう明かす。
「タイ人ぽい動きでやり辛さがあり、右のカウンターもうまく油断はできない。KO率も高く、パワーとパンチもある。でもパワー対パワーなら負けない。警戒しているのは、ラミレスを攻略した技術。一発にしろ、ダメージの蓄積にしろ、KOにもっていけるようなダメージを負わせたい」