なぜファジアーノ岡山は“J1空白県”の歴史を塗り替えることができたのか…「守らせたら天下一品」磨きあげた堅守速攻スタイル
完敗を認めた森山監督とは対照的に、木山監督は男泣きした。
「これまで岡山というクラブの悲願でもあったし、僕自身もプレーオフで4回も弾き飛ばされてきて、もう二度と勝てないんじゃないか、と思った時期もあったので」
J1昇格POが初めて実施された2012シーズンの決勝で、6位から勝ち上がってきた大分トリニータに下剋上を食らった、ジェフ千葉を率いていたのが木山監督だった。その後も愛媛FC、山形、2年前の岡山で苦杯をなめさせられてきたPOを、実に5度目の挑戦にして制した指揮官だけが悔しさを募らせてきたわけではない。
竹内と神谷は清水に所属していた昨シーズンのPO決勝で、試合終了直前に献上したPKで東京ヴェルディと引き分け、レギュレーションによりリーグ戦の成績上位だったヴェルディが最後の昇格の1枠を射止める姿を目の当たりにしている。
3バックを形成した3人にしても、左の鈴木喜丈(26)はプロの第一歩を踏み出したFC東京時代にJ1リーグ戦出場がなく、真ん中の田上大地(31)は昨シーズン限りでアルビレックス新潟を契約満了となり、右の阿部海大(25)も昨シーズンはJ2のブラウブリッツ秋田へ期限付き移籍して武者修行している。
殊勲の末吉も千葉で試合出場から遠ざかっていた昨夏に、木山監督を介して岡山からオファーを受けて期限付き移籍で加わり、今シーズンから完全移籍へ移行した経緯がある。プロ1年目だった2019シーズンに、木山監督が率いていた山形でプレーした末吉は、指揮官のチームマネジメントを表裏のない言動に帰結させる。
「思っていることをはっきり言ってくれる。ときには厳しい言葉もありますけど、選手にとっては『何を考えているのだろう』と思うところが正直、ないんですね。だからこそ、いまの僕たちには何が足りないのかがわかる。監督自身もプレーオフでずっと悔しい思いをしてきたと聞いていたので、今年こそはファジアーノ岡山のためにも、そして監督のためにも絶対に昇格したいと思いながら戦ってきました」
それぞれが悔しい思いと、J1の舞台で戦いたい思いを同居させながら、岡山というチームに集ってきた。そこへ、男にしたいと思える指揮官と出会えた。大好きなサッカーに対してとにかく真面目で、いざピッチに立てば愚直なハードワーク軍団と化す岡山が、時間の経過とともに堅守速攻に磨きをかける土壌は整っていた。
「今日は勝てば泣いていい、すべてを出し切ろうと選手たちと一緒に戦いました。創設時から頑張ってきた方々から、努力を受け継いできました。それが頑張るチーム、ファジアーノの原点をひとつの形にできて本当によかった」
こう語った木山監督は再び声を震わせた。頑張る岡山の証である不敗神話を、昇格POの2試合を加えて「20」に伸ばした先には、東を大阪と兵庫、西を広島とJ1優勝経験のあるクラブに挟まれながら、一度も手が届かなかった最高峰の舞台が待っている。
(文責・藤江直人/スポーツライター)