「負けてから強くなるのが辰吉やん」なぜ辰吉ジュニアは初のタイトル戦で衝撃の2回失神TKO負けを喫したのか…カリスマの父は再起を促すメッセージを送る
9年8か月目にして巡ってきた初のタイトル挑戦で舞台は聖地の後楽園。しかも相手が、苦手のサウスポー。中嶋はキャリアで2敗しているが、現WBA世界バンタム級王者の堤聖也(角海老宝石)、現OPBF東洋太平洋バンタム級王者の栗原慶太(一力)、井上尚弥が9月に戦った元IBF世界スーパーバンタム級王者のTJ・ドヘニー(アイルランド)ら一流ボクサーと戦ってきた。対する辰吉は、格上とのマッチメークはなく、怪我などでブランクも作った。懸念されたキャリアの差、そして課題だったディフェンスの甘さは、カリスマの遺伝子では埋めることができなかった。
寿以輝はコメントはせずに後楽園を後にした。
父は、息子の今後について独特の言い回しでメッセージを伝えた。
「これ(黒星)をええもんにするか、“ああ最悪だった”にするかは、本人次第。僕はなんも言えん。まわりが、やいのやいの、親としても言ってはいかんのかな。納得するならそれ(引退)でいい。(納得)せんというならやればいい。ただ、辰吉風で言葉を入れさせてもらうなら、オレならリマッチする」
父としてそして一人のボクサーとして複雑に気持ちが揺れ動く。
そして再び立ち上がれと激を飛ばす。
「負けてから強くなるのが辰吉やん。負けを知らんかったら強くなれん。オレは立ったまま失神やん。立ったまま失神してみい。立ったまま失神したら認めたる。倒れた失神なら誰でもできる。オレは負けた次の日に走った。試合後は体が痛くなるから。寿以輝も(明日)走らなあかんやろ。誰にことわってKO負けしてんねん」
父の丈一郎は、1999年8月に大阪ドームでウィラポン・ナコンルアンプロモーション(タイ)と再戦したが7回に立ったまま失神するという壮絶なTKO負けを喫した。その後、王座に返り咲くことはなかったが、2年後に再起している。
吉井会長も「将来が閉ざされたわけじゃない。やるというならもちろん(チャンスは)ある」と再起舞台を用意する考えを明かした。
父のボクシング人生はまさに雪辱の人生だった。プロ7戦目で世界のベルトを手にしたが、網膜裂孔でブランクを作り、ビクトル・ラバナレス(メキシコ)に敗れて王座陥落もリベンジを果たした。薬師寺保栄との世紀の一戦で判定負けし、変則サウスポーのダニエル・サラゴサ(メキシコ)に2度敗れながら、シリモンコン・シンワンチャー(タイ)から劇的な勝利で5年越しに世界のベルトを奪還した。
カリスマの血を引く寿以輝の本当のボクシング人生も敗戦の屈辱から始まるのかもしれない。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)