「新人王は取って当たり前なんで45点」辰吉ー薬師寺戦から30年の節目に“名門”松田ジムから超逸材ルーキーが現れる…20歳の村田碧が美しいアッパー4回TKO勝利で技能賞をゲット
プロボクシングの全日本新人王決定戦が21日、後楽園ホールで行われ、12階級に東西代表が火花を散らした。とびきりの才能を見せつけたのが技能賞に選ばれたスーパーフライ級の村田碧(20、松田)だ。高橋秀太(23、角海老宝石)から2度ダウンを奪い4回8秒TKO勝利。同ジムに所属した元WBC世界バンタム級王者の薬師寺保栄氏が辰吉丈一郎と“世紀の一戦”を戦ってからちょうど30年。当時の会長の松田鉱二氏は、昨年12月に永眠したが、長男の鉱太氏が後を引き継ぎ、2年連続で新人王を輩出するなど名門ジム復活の兆しを見せている。大会MVPには1回54秒でTKO勝利したスーパーバンタム級の山本愛翔(18、カシミ)、敢闘賞にはス―パーフェザー級の激戦を4回TKOで決着をつけた梶野翔太(19、角海老宝石)が選ばれた。対戦成績は東軍の7勝、西軍の5勝だった。
父の稔氏も新人王の西軍代表まで進んだ元プロボクサー
超一級品の原石が名古屋の名門、松田ジムから出てきた。
スーパーフライ級の村田だ。第4ラウンドの開始直後だった。左フックで高橋のバランスを崩すとそこへ美しい右のアッパー。東軍代表は前のめりに倒れた。
レフェリーはカウントせずにTKOを宣言。それでも村田は、控えめに右手を2度軽くあげただけで、しばらく表情も変えず喜びを爆発させることはなかった。
「もっと圧倒したかった。もっと完封したかった。満足はしていない。新人王はとって当たり前なんで」
自己採点を聞かれて「45点」と落第点をつけた。
最後に仕留めた右アッパーは練習を積んできた必殺パターンのひとつ。
「左フックを当てることには自信がある。そこから引き込んでからの強打のアッパーが得意のコンビネーション。特に手応えはなかった」
タイミングもさることながら流れるようにコンビネーションブローにセンスが光った。
第1ラウンドはペースを狂わされた。高橋が左右のフックを振り回して体ごと突っ込んできた。
「パンチで入ってくるかなと思ったが体ごときた。スペースを作れず付き合う場面が多くなった」
それでもグチャグチャの展開には巻き込まれず切り替えるのが村田の非凡さ。
14年前の新人王戦でフェザー級の西軍代表にまでになった元プロボクサーで専属トレーナーの父稔さん(48)がインターバルでアドバイスを送る。
「ジャブは当たっている。自信を持っていい。距離を意識しろ」
2ラウンドからジャブを多用して距離を取り自分のボクシングを取り戻す。
「(突っ込みを)受け入れるな!」
セコンドから父の声が何度も飛んだ。
3ラウンドには、小刻みなステップを踏み、サイドへのポジションチェンジを使いながら上下にパンチを散らした。再び接近戦を仕掛けられても、今度はしっかりとスペースを作り、左右のフックをヒット。苦しむ高橋がクリンチで絡みついてきたが、その態勢のまま右フックを顎へ叩き込み一度目のダウンを奪った。
「接近戦での見えないパンチ。自分の空間を作りつつ強打を当てるスパーをやっていた。僕はアウトボクシングが基本だけど、距離が近くになっても対応できる。そこも武器のひとつかな」
村田が自画自賛した。
プロ7戦目にしてショートレンジとロングレンジの両方でそれぞれダウンを奪うのだから逸材と言っていい。技能賞に選ばれたが「狙っていた」のはMVP。昨年は、松田ジムから武藤涼太がスーパーバンタム級でMVPを獲得していた。2年連続の称号をジムにもたらしたかったが「それが力みになった」という。