「新人王は取って当たり前なんで45点」辰吉ー薬師寺戦から30年の節目に“名門”松田ジムから超逸材ルーキーが現れる…20歳の村田碧が美しいアッパー4回TKO勝利で技能賞をゲット
長崎で暮らしていた小1の冬からボクシングを始めた。プロボクサーだった父に付き添ってジムへ通ううちに興味を抱いた。「ボクシングをやりたい」と言ったとき、父からは「真剣にやるのなら」との条件を突きつけられた。先にプロの道へ進み、すでに引退した兄の翼さん(26)の存在も大きかった。
「お父さんは、強打ワンツー、フックがメインのボクサーで今の僕とはスタイルが全然違う。そこで学んでこういうスタイルにしたと教えられた」
父は現役時代ボディブローを得意とするハードパンチャーだった。
「私は天狗になっていた。引退してわかったことがある。自分みたいになって欲しくはない。だからどうすれば強くなれるか。アマチュアから海外の選手まで研究した。私が教えることのできるいいところだけを残して教えた」
父が息子を指導する上で、理想形にあげているのは、元4階級制覇王者で大晦日にリベンジ戦を控えている井岡一翔(志成)だ。「井岡選手が一番。微調整のポジションがある。そこに武器がプラスされれば」という。
小1から4年間は「ジャブとワンツーの基本」しかさせなかったという。
小5で初めての実戦となるU-15に挑んで全国優勝。
「なぜ村田にはパンチが当たらないのか」と評判になった。
高校は、松田ジムの先輩である薬師寺氏、元WBC世界スーパーバンタム級王者の畑中清詞氏らが通った享栄高校を選んだ。だが、最高成績はインターハイの3位。父曰く「万年3位」。志成ジムに進みプロ2戦2勝で早くも世界ランキングに入っている吉良大弥、今年の全日本選手権で優勝した駒大の山口瑠らのライバルに勝てなかった。学校と自宅での2部練を科したが、この頃は「自我が出始めた反抗期でビッグパンチを打とうとばかり考えていた」と父は振り返る。
卒業と同時にプロ転向したが3戦目までは「好きにやっていい」と何も言わなかった。昨年7月のデビュー戦から続けて判定勝利。2戦目では、今大会でMVPを獲得した山本を一人がフルマークをつける一方的な内容で下しているが倒せなかった。
助言を求める悩める息子に父はこう説いた。
「力任せでは倒れない。ボクシングはタイミング。力を抜いてみろ」
そこから5試合連続KO勝利である。
「上を目指せる環境にある」と和光ジムから松田ジムへ移籍したのが今年7月。2年連続の新人王を輩出した松田ジムには勢いがある。昨年のMVPの武藤は今月12日に日本ユース同級王座を獲得するなど名門復活の兆しを見せている。
今年は、あの薬師寺―辰吉の世紀の一戦からちょうど30年。運命的なものを感じるが、昨年12月に亡くなられた先代から会長職を引き継いだ長男の鉱太氏は「別にそこはなんとも。特別なことは何もしていない。選手、トレーナーが毎日練習をがんばった結果」と謙虚だ。