「新人王は取って当たり前なんで45点」辰吉ー薬師寺戦から30年の節目に“名門”松田ジムから超逸材ルーキーが現れる…20歳の村田碧が美しいアッパー4回TKO勝利で技能賞をゲット
ただ会長はミットを持たずトレーナーに全権を任せ「見守る」という先代会長が貫いたジムの伝統は引き継いでいる。伝説の薬師寺―辰吉戦についても、村田ら所属ボクサーに「語ることはない」という。
「今の人に古い話をしても“ええ?”で終わる。あれを超えようと思っても超えられないが、ああいう選手を育てていきたい」
その夢を託す一人が村田なのだろう。
同ジムからは、薬師寺以来、世界王者は出ていない。
村田が狙うのは、もちろん世界王者。
トレーナーとして松田ジム入りした父が描く世界獲りプランはかなり具体的だ。
来年は「強い相手」と6回戦を2試合戦い、再来年にユースなどのタイトルを獲得して、日本ランキングをアップさせ、「3年目に日本、地域タイトルなどを取り、世界ランキングをあげて世界を狙える位置にいたい」というもの。「私はボクシング界のいいところも悪いところも知っている。3年でそこまでいっていないと商品価値はなくなる」という考え。
村田が夢を語る。
「その階級で、他の選手が“こいつとはやりたくないくらい”と思うくらい強く、何もできないなと思わせるチャンピオンになりたい」
スーパーバンタム級の4団体統一王者である井上尚弥(大橋)を思い浮かべるが、“憧れのボクサー”として、モンスターの名前もジムのレジェンドの名前もあげなかった。
「アマからプロ転向したキューバのアンディ・クルスのスタイルが好きなんです」
東京五輪のライト級金メダリスト。決勝ではトッププロスペクトとして期待されているキーション・ジョーンズ(米国)を下し、昨年7月にプロデビュー戦でいきなりIBFインターナショナルライト級王座を獲得した近い将来の世界王者候補のクルスだ。こんな渋いボクサーの名前を出すところが常人とは違う。
現在は8キロの減量があり、まだ20歳で身体の成長が予想されるが、本人も父も「スーパーフライ級で勝負したい」との覚悟がある。
現在は、名古屋のショッピングモールのフードコートにあるタコ焼き売り場でバイト中。
「試合に集中するために休んだから焼くのは下手になっているかも」
そう笑うときだけは、どこにでもいそうな20歳だった。
(文責・本郷陽一/ROSNPO、スポーツタイムズ通信社)