本物か偽物か?なぜ那須川天心は前WBO世界王者モロニーとの危険な戦いを選んだのか…「辰吉vs薬師寺戦」の流れに重なる武居由樹とのビッグマッチへの最終テスト
プロボクシングの「PrimeVideoBoxing11」(来年2月24日に有明アリーナ)の会見が27日、都内で行われ、バンタム級の豪華3カードが発表された。注目はWBOアジアパシフィック同級王者の那須川天心(26、帝拳)が前WBO世界同級王者のジェイソン・モロニー(34、豪州)に挑むノンタイトル10回戦。モロニーは天心が2025年の標的とする同王者の武居由樹(28、大橋)に0-3判定でベルトを奪われており、両者の実力が比較される重要な一戦となる。またWBC世界同級王者の中谷潤人(27、M.T)が同級6位、WBO2位の無敗の強豪のダビド・クエジャル(23、メキシコ)と3度目の防衛戦、WBA世界同級王者の堤聖也(29、角海老宝石)は元WBC世界フライ級王者で同級7位の比嘉大吾(29、志成)と初防衛戦を行う。
「世界で通用するかどうかがわかる試合」
「実力が本物か偽物かがわかる時」
ボクシング転向6戦目で天心が覚悟を持って迎える相手は、5月6日の東京ドーム決戦で、武居に0-3判定でベルトを奪われた前世界王者。その後も、堤が井上拓真のベルトに挑戦する際のスパーリングパートナーとして来日するなど、王座返り咲きのチャンスを狙っていて、バンタム級では、WBCで5位、IBF、WBOで6位にランクされているバリバリの世界ランカーだ。昔の元世界王者を引っ張り出してくるようなまやかしのマッチメイクではない。しかも、天心が自ら指名した。
本田明彦会長が示した対戦候補は4人。そこにプラスして5人目にモロニーの名前があった。4人の映像を見た上で決めればいいとのオファーだったが、天心は、そのプロセスを踏まずにモロニーとの対戦を即断した。
「仕組まれていた感じ(笑)。モロニーって言われたら、やるって言うじゃないですか」
どこか嬉しそうだ。
「世界で通用するかどうかがわかる試合。僕に勝って欲しい人もいれば、負けて欲しい人もいると思うので、そういう人たちとも勝負」」
そうとも言った。
なぜ冒険マッチと言っていいリスクのある相手を選んだのか。
「世の中的にはモロニーの名前を知っていて、やっと本当に実力をもろにわかるんじゃないですか。見ている人は、ちょっとのチャレンジじゃチャレンジと思ってくれない。ここは勝負に出た。チームの信頼も感じる」
この26歳の若者は非常に客観的に自分を見ることができる。無名のボクサーを相手に連勝記録やKO記録を作ることに意味がないこと、そして地域タイトルを取っても今なお根強い「天心は本当に強いのか?」という懐疑的な目を払拭するために何が必要かをよくわかっている。プロデューサー的な思考がある。
そして何より重要だったのはモチベーションだ。
「自分の中でのボクシングに対しての挑戦表明。生半可な気持ちでやっていないことをみんなにわかってもらう。久々の感覚。楽しみ。僕より強い選手を倒す。こういう試合をしてこそ格闘家の真骨頂。待っていましたという感じ。こういうときめちゃくちゃいいんです。勝ち方にこだわらず思うのまま、何も考えずい試合ができるのがでかい」
RISEやRIZINのリングで活躍したキックボクサー時代は、あまりにも実力が抜きんでていたため、対戦相手に困窮した。プロボクシングの無敗の元5階級制覇王者のフロイド・メイウェザー・ジュニア(米国)との体重差のある無謀なエキシビションマッチや、キックルールで総合格闘家の堀口恭司(ATT)とも対戦した。キックボクサー時代の最後にK-1王者との武尊と、東京ドームの「THE MATCH」で頂上決戦を戦えたが、常にヒリヒリできる戦いを追い求めていた。トレーナーを務めてきた父の弘幸氏が「天心は、相手が強くなりビッグマッチになればなるほど力を出す」という話をしていたが、リスクのある戦いにこそ、自分の隠れた才能が引き出され進化することを知っているのだ。
だから危険な戦いとなるモロニーを選ぶことに何の躊躇もなかった。