本物か偽物か?なぜ那須川天心は前WBO世界王者モロニーとの危険な戦いを選んだのか…「辰吉vs薬師寺戦」の流れに重なる武居由樹とのビッグマッチへの最終テスト
では天心はモロニーに勝てるのか。
天心はモロニーを「綺麗。何でもできるバランスがとれた選手」と評した、
武居戦は0-3判定で負けたが、最終ラウンドは、元K-1王者をグロッキー寸前にまで追い詰めた。もしモロニーのホームで行われている試合であれば、レフェリーがストップしてもおかしくないほどの猛攻だった。天心は「そこを切り取って見ることはないが、ついこの前まで世界チャンピオンなのだから怖さもある。攻めることも知っている」と警戒している。
そしてポイントは「距離」とした。
「そこが大事。しっかりとジャブを突きあって距離の取り合いでいかに負けないか。そこが勝利のテーマ勝負」
武居戦で明らかになったのは、モロニーは決して天心のようなサウスポーが得意ではないこと。リズムに乗れないのか、攻守の切り替え、つまりオンオフがうまくいかず守勢に回る時間に武居にポイントを奪われた。武居よりも距離をつかむのがうまい天心は、その時間帯を多く作ることができるだろう。ただ、ここまでの5戦で天心が激しい攻撃にさらされたことは一度もなかった。10ラウンドの中のどこかでモロニーは必ず武居戦の最終ラウンドのようなアグレッシブな攻撃に打って出る。そこで天心がどう対応するのか。逆にそれをチャンスと捉えて得意のカウンターの餌食にしてしまうのか。
参考になるのは4年前の現スーパーバンタム級の4団体統一王者、井上尚弥(大橋)の戦い方だ。井上は、コロナ禍のラスベガスでモロニーと対戦し、2度ダウンを奪って、7回にTKO勝利しているが、1度目は左のフック、フィニッシュは右のストレートと、いずれもモロニーがアクションを起こした際に打ち込んだ芸術的で破壊力抜群のカウンターパンチだった。
その試合映像を見たという天心は「終始圧倒。距離の潰し方がうまかった。参考?ありますね」と言う。モロニー戦は、武居だけでなく、井上との比較論にさえ発展する可能性もあり「いろんな評価につながる」との意識もある。
「来年は世界のベルトに挑むことになる。今まで以上の一番の勝負かなと思う。下から上がっていく姿を見せられる。革命の狼煙をあげます」
天心は会見でまた不思議な宣言をした。
SNS全盛の時代に否定的な天心は「昔、携帯がなかった時代の合図…」と狼煙の説明をし始めたので途中でさえぎった。おそらく彼はリング上の戦いというリアルを彼のSNSをフォローする若い世代へのメッセージへと変えたいのだろう。
天心は「ニュアンスでやっているから、あんまり、そこは突っ込まなくていい」と苦笑いをしながら、こう熱弁した。
「自分の中での革命。来年は対世界になる。今まではどんなもんかという見られ方をしてきたが、来年からは世界に挑戦して、どういうベルトをとるのか、と見られ方も変わってくる。世界チャンピオンになることで言えることもある」
モロニー戦から始まる2025年は天心にとって勝負の1年となる。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)