井岡一翔の大晦日世界戦中止の裏でファンを裏切ったWBA王者のインフル罹患の隠蔽問題…健康安全を管理するJBCは「理想はもっと早く中止を決断すべきだった」と苦言
プロボクシングの元4階級制覇王者の井岡一翔(35、志成)のWBA世界スーパーフライ級王者のフェルナンド・マルティネス(33、アルゼンチン)とのダイレクトリマッチ(31日・大田区総合体育館)の中止が30日に発表された。マルティネスが来日後の25日にインフルエンザに罹患、ギリギリまで回復を待ったが試合のできるコンディションに戻らなかったもの。なお興行は元OPBF東洋太平洋フェザー級王者、堤駿斗(25、志成)のWBA世界スーパーフェザー級挑戦者決定戦をメインに繰り上げて開催され、希望者にはチケットの払い戻しに応じるという。
「複雑な心境だが、怒りはない」と井岡
最悪の事態が起きた。
ショーアップされた前日計量の壇上に王者マルティネスの姿はなく、志成ジムの二宮雄介マネージャーがマイクを握り世界戦の中止を発表した。
26日の公開練習、29日の調印式を続けてドタキャンしていたマルティネスは、実は、25日にインフルに罹患していた。解熱剤やインフルの治療薬が投与され、王者も試合出場の意思を示したため、ギリギリまで回復を待った。一時38度後半まで上がった発熱は解熱したが、体調は戻らず、この日の午前9時にホテルを訪れた志成ジムの関係者にマルティネスはベッドに横になった状態で「試合はできない。申し訳ないがキャンセルさせて欲しい」と申し出た。二宮マネージャーは、「食べることができず、関節などが痛み、とても試合のできる状態ではなかった」という。
会見に出たマルティネスのマネージャー兼トレーナーのロドリゴ・カラブレッセ氏は「申し訳ない」と謝罪。
「回復すると最後まで思っていた。この世界戦は重要で選手も努力していた。だが、私のボクサーはコンディションを作れなかった」と説明した。
自宅で最後の“水抜き”に入っていた時に中止を聞かされた井岡は、「とても複雑な心境ですが、この状況を受け入れて切り替えて次に進んでいくしかない」と厳しい表情で予期せぬハプニングを受け止めた。
前日の調印式のドタキャン時に初めて王者の体調が悪いことを聞かされた。
「試合ができるかどうか不安に思ったが、できることをやっていかないといけないし、開催されることを願っていた。何より自分もマルティネス選手もベストの状態でリングに上がるのがベストだと思っていたので、それを信じてやるべきことをやっていました」
だが、結局、待っていたのは最悪の結果だった。本来ならば、正午の計量をクリアした後に飲むはずの水分を計量前のタイミングで飲めることになり、「キャリアで初めてのこと。実感はわかないし違和感を感じた」と素直な気持ちを伝えた。
猛威をふるっている都内でのインフル罹患は、不可抗力ではあるが、自己管理のミスとも考えられる。だが、井岡は「怒りはない」という。
「試合がなくなって残念な気持ちですけど、僕自身、集中してこの試合に向けて、できることをチームとやってきた。とてもいい練習ができて、すごくいい時間を過ごすことができたのでその過程は無駄にはならない。マルティネス選手自身も体調管理に気を付けて、インフルエンザになりたくてなったわけじゃない。仕方のないことだと思うので、自分の中でそれを受け入れてしっかり整理して、また自分と向き合ってやっていくしかない。僕自身、下を向いていられないし次に向いて進みたい」
日本初の4階級制覇王者にふさわしい潔い言葉だ。