「彼女は死ぬかもしれないと思った」パリ五輪100グラム超過の計量失格で銀メダルを失ったインド女子レスラーのコーチが壮絶な減量舞台裏を告白…本人は引退撤回を示唆
パリ五輪女子レスリング50キロ級の当日計量で体重超過の失態を犯して失格となったビネシュ・ビネシュ(29、インド)のコーチを務めていたウォラー・アコス氏(49)が16日、SNSにて壮絶な減量の舞台裏を明かした。ビネシュは1回戦で東京五輪金メダリストの須崎優衣(25、キッツ)を破る大金星をあげ、その後、決勝進出を果たしたが、2日目に100グラムを落とせず失格、その後、自身のXで引退を表明していた。インド五輪委員会は銀メダルの権利を要求してスポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴したが、訴えは却下されている。
パリ五輪での忘れられない出来事のひとつが女子レスリングの当日計量で100グラムが落とせずに失格となり、確定していた銀メダル以上を失ったビネシュの減量失敗だろう。
ビネシュは8月6日に行われた1回戦で海外勢を相手に94連勝と絶対的な強さを誇り、金メダルの大本命だった須崎に残り10秒で逆転勝ちする大金星をあげて、その勢いで決勝まで進んでいただけになおさら日本にも強い印象を残した。
だが、2日目の午前7時15分から7時30分の間に行われる当日計量で残り100グラムを落とせず、失格となった。インドの複数メディアが徹夜で減量に取り組み、血を抜き、髪の毛まで切った様子を報じていたが、16日にビネシュのコーチを務めていたアコス氏が、自らのフェイスブックにてハンガリー語で、その壮絶な舞台裏と、ビネシュと交わした会話の内容を明かした。
「準決勝(1日目の全試合終了)の後、2.7キロ体重が増えていた。1時間20分運動したが、まだ1.5キロが残っていた。その後、50分間、サウナに入ったが、汗が一滴も出なかった」
試合後にすぐに減量に取り組んだものの、まだ1.5キロも落とさねばならず、その時点で汗が出ない限界に達していたことがわかる。
アコスコーチは、さらにこう続けた。
「もう選択の余地はなく、彼女は、真夜中から朝の5時30分まで、2、3分間の休憩を挟みながら一気に45分間を動くという形で、さまざまな有酸素運動のマシンと、レスリングの動きに取り組んだ。(それでもリミットまで落ちず)彼女は再び(減量を)始めた。彼女は倒れてしまったが、なんとか起き上がらせてサウナで1時間過ごした。わざとドラマチックなディテールを書くわけではないが、彼女が死ぬかもしれないと思ったことだけを覚えている」
アコスコーチは、噂として報じられた血液を抜いたことや髪の毛を切ったことなどには触れなかった。“血抜き”に関しては一緒に減量に付き合ったビネシュの夫が注射器を用意したのは事実だが、実際には行わなかったという話もある。だが、徹夜で行われた減量は、最後は倒れた後に再びサウナに入るなどアコスコーチの頭に「死」がよぎるほど壮絶だったのだ。
結局、ビネシュは残り100グラムを落とせず失格となった。極度の脱水状態となったため、選手村の医療センターに入院し、点滴治療などを受けた。その夜、医療センターから戻ってきたビネシュは、アコスコーチにこう語りかけたという。
「コーチ!悲しまないで下さい。あなたは、私が(減量で)困難な状況に陥って、エネルギーが必要になったときには『世界最高の女子レスラー(日本の須崎)に勝ったことを考えなさい』と言いました。私は目標を達成し、自分が世界最高の一人であることを証明しました。私たちは、ゲームプランが機能することを証明しました。メダルや表彰台は、ただの形です。(私たちが成し遂げた)パフォーマンスを奪うことはできません」
ビネシュにとってメダル以上に“世界最強”の須崎に勝ったことが何よりの誇りだったのだ。