前橋育英を4強に導いた”怪物FW”オノノジュ慶吏は成績オール「5」で慶応大法学部政治学科へ進む”頭脳明晰”ストライカー
第103回全国高校サッカー選手権の準々決勝4試合が4日に行われ、フクダ電子アリーナで行われた一戦で前橋育英(群馬)が1-0で堀越(東京A)を破り、初優勝した2017年度大会以来、7大会ぶりの準決勝進出を決めた。0-0で迎えた後半15分にFWオノノジュ慶吏(ケリー、3年)が値千金の決勝ゴールを一閃。ナイジェリア人の父と日本人の母との間に生まれ、卒業後は慶応義塾大学法学部政治学科に進む文武両道を極めたエースは、今大会のゴール数を4に伸ばして得点ランク2位タイに浮上した。
決勝ゴールを決めて今大会4点目
冷静に。そして確実に。シュートを打つ直前に青写真を描き直した。
ハーフウェイライン付近でMF平林尊琉(2年)がボールを奪い、発動させた前橋育英のカウンター。パスを受けたFW佐藤耕太(3年)が右へ流し、MF黒沢佑晟(3年)が放った強烈なシュートがクロスバーに弾かれた直後だった。
こぼれ球が来るのがわかっていたかのように、ゴールからやや離れた場所にフリーでポジションを取っていたオノノジュが、万全のシュート体勢に入る。もっとも、背番号「8」が最初に思い描いたビジョンは違っていた。
「自分の前に運よく転がってきて、最初は思い切り蹴ろうと思ったんですけど」
しかし、仲間たちが一丸となって生み出した決定的なチャンスを、絶対に無駄にしたくない、という思いが思考回路を修正させた。
「ふかしたら後悔すると思って。インサイドで冷静に、というか、空いているところを狙って蹴ったんですけど、うまく当たらなかったのが逆によかった」
絶対にゴールさせてなるものかと、堀越のフィールドプレイヤーたちも必死にシュートブロックに飛び込んでくる。その一人、MF渡辺隼大(3年)の腹部をかすめた、やや当たり損ねの一撃はコースを変えて、ゴールの左隅へ吸い込まれた。
チームを7大会ぶりの準決勝へ導いたヒーローは万感の思いを口にした。
「ハーフタイムに『1点でいい。1点決めたら勝てる』と監督が言っていて。チームとして1点が欲しい状況で、自分がその1点を決められて本当にうれしかった」
ナイジェリア人の父と日本人の母の間に、東京都板橋区で生まれ育ったオノノジュは、引っ越した先の同西東京市で幼稚園のときにサッカーをはじめた。
小学校6年生のときに、FC東京サッカースクールのアドバンスクラスのセレクションに合格。中学年代はFC東京U-15むさしでプレーし、高校生年代のFC東京U-18をへて、将来はプロに、と夢が膨らみかけた矢先に挫折を経験した。
U-18には昇格できないとクラブ側から告げられた直後の心境を、オノノジュは「やはり落ち込みました」と、ちょっぴり神妙な口調で振り返る。
「このままいけば(U-18に)上がれる、と言われていたなかで実際には昇格できなかったので、自分としては『なぜ』という感じでした。でも、上がれなかった以上は切り替えるしかないと、高校サッカーで頑張ると思うようにしました」
人生の岐路といってもいい選択で、もっとも重視したのが環境だった。練習施設はいうまでもなく、オノノジュが強く希望したのは寮生活ができる高校だった。
「自分を新しい環境に置きたかったし、東京ではなく遠い場所でサッカーをやりたかった。いろいろな選択肢がありましたけど、一番いいと思った前橋育英を選びました」