前橋育英を4強に導いた”怪物FW”オノノジュ慶吏は成績オール「5」で慶応大法学部政治学科へ進む”頭脳明晰”ストライカー
大学でもサッカーを続けるオノノジュは、卒業後に満を持してプロを目指す。
「自分は怪我が多いし、プロでやっていける自信というか、確信がなかった。高卒でプロになってうまくいかなかった選手を何人か知っているなかで、自分はしっかりとステップアップしていきたいと思うようになりました」
今大会でもオノノジュは怪我に見舞われている。
米子北(鳥取)との1回戦で先制弾を決めながら、脇腹にタックルを受けて前半に負傷退場したオノノジュは、愛工大名電(愛知)との2回戦を欠場した。チームは2-2から突入したPK戦を6-5で制し、迎えた帝京大可児(岐阜)との3回戦ではオノノジュの2ゴールなどで3-2と振り切っている。
3回戦に続いて準々決勝でも痛み止めの飲み薬を服用し、執念の決勝点を決めたエースへ、山田耕介監督(65)も目を細める。
「今日は守備をやれ、プレスバックをやれと言いました。パワーがあるので、相手ボールを取り切れる場面が絶対にあると思っていたので」
実際に前半17分には、鋭い出足から相手ペナルティーエリア付近でボールを奪取。速さと強さでスタンドをどよめかせている。前橋育英で指導してきた3年間でもっとも成長した点を問われた指揮官は、こんな言葉を残している。
「サッカーに対して真摯に向き合うようになった、というところが一番大きいですね。ああいうタイプなので、一生懸命やれといっても……みたいな感じだったのが、だんだん、だんだんよくなってきましたよね」
就任43年目で、数多くのJリーガーを輩出してきた名伯楽が、オノノジュに頻繁にかける言葉が「ケリー(慶吏)、来い!」となる。守備でも力を出し尽くせという指示が、前回大会ベスト4の堀越相手にさらに多く響いた。オノノジュも苦笑する。
「普段は走らないと多分チームメイトにも思われているかもしれないけど、今日は試合に懸ける思いが強く出たし、チームのために走ろうと思った。いつもさぼるというわけではないけど、今日はより意識が高かったし、疲れなかったです」
国立競技場に舞台を移す11日の準決勝の相手は東福岡(福岡)に決まった。同校が優勝した2015年度大会の勇姿が、当時9歳だったオノノジュ少年をも魅了。全国高校サッカー選手権という大会がある、と教えてくれた相手でもある。
「国立へ行くからといって満足するのではなく、国立であと2回勝つのが自分たちの最終的な目標。得点数や得点王にはあまりこだわらずに、目の前の試合、試合でチームの勝利に貢献できるゴールを目標にすえて頑張っていきたい」
準々決勝で破った堀越の三鴨奏太(2年)の5ゴールに次いで、ベスト4に進んだ流通経済大柏(千葉)のFW山野春太(3年)らとともに4ゴールで2位につける。それでも自らの決断で進むべき道を切り開いてきたオノノジュは、前橋育英の2度目の日本一だけを見すえて、チームとともに静岡市内で短期合宿を積みながら準決勝へ備える。
(文責・藤江直人/スポーツライター)