前橋育英の高校サッカー史上最多となる”20人PKの死闘”を制した舞台裏にあった壮絶なドラマを追う
「かつては徹底してPKの練習をしていましたけど、それでもPK戦で負けちゃう。やりすぎるのも逆効果だと思って、ひとつひとつに集中させながらポツン、ポツンとPK練習をさせてきました。今日はとにかく我慢して、耐えて、リザーブのメンバーも常に待機させて、疲れたらすぐに交代と話していたんですけど」
得点ランキング2位タイの4ゴールをあげていたエースストライカーのFWオノノジュ慶吏(3年)、東福岡(福岡)との準決勝で2ゴールをあげたFW佐藤耕太(3年)も、ともに精根尽き果てて下がったベンチで戦況を見つめる。PKの練習を取り入れたのは、東福岡戦の2日前のたった一度。それでも、たとえば3番手を任されたDF瀧口眞大(2年)は、蹴る直前に何と笑顔を浮かべていた。
優勝決定後の表彰式で、左腕に再びキャプテンマークを巻いた石井が言う。
「みんなにはPK戦前に『楽しめ』と言いました。こんなに多くの観衆が入った国立競技場で、最後の最後にPKを蹴れる状況を『楽しんでいこう』と」
たくましさをも感じさせる選手たちに、山田監督も再び目を細める。
「今大会は接戦ばかりでしたけど、彼らのメンタリティーがどんどん強くなり、チームワークを含めてものすごくいい雰囲気になってきた。さまざまな可能性をもっている高校生がいつ、どのような形で成長するのか。私も勉強になりました」
昨夏は群馬県予選の準決勝で共愛学園にPK戦の末に敗れ、インターハイ出場を逃した。石井はこのときもPKを外した。どん底に突き落とされてから約半年。初優勝した2017年度大会と同じく流経大柏と対峙した決勝を、因縁のPK戦の末に制した。
今春の卒業後はオノノジュが慶應義塾大、石井が明治大、藤原が東洋大と3年生たちは別々の道を歩み、プロを夢見ながらサッカーを続ける。現チームで戦える最後の一戦を大団円で終えた山田監督は「いやぁ、高校サッカーって本当に素晴らしいですね」と大会を総括し、白井や柴野らに託される新チームの成長へ早くも視線を向けていた。
(文責・藤江直人/スポーツライター)