「グッドマンより遥かに期待してもらっていい」井上尚弥と緊急対戦する韓国のWBOオリエンタル王者キム・イェジュンが豪語…日本人に7戦7勝で「日本人との対戦は一番簡単。特性を知っている」
キムは両親の顔を知らない。5歳の時に養護施設に入り、19歳までそこで過ごした。小、中学生の多感な時期は、親がいないため学校で「萎縮し、自信もなくなって恥ずかしく思うことも多かった」という。そのキムの人生を変えたのが、養護施設を退所した20歳で出会ったボクシングだった。
「お金を稼ぐスポーツはボクシングしかないと思った。人生を変えようと思って始めた。ボクシングには一切、お金や後ろ盾など必要ない。ただ私一人で二つの拳で戦って全部勝てばいいスポーツ。それだけは自信があった」
そのハングリーが強さの根源だ。
2012年2月にデビューしたキムはWBCユース王座、IBFアジア王座を獲得するなど順調に結果を残して10年前には「韓国で最も世界王者に近いボクサー」との評価を受けて、当時のIBF世界同級王者のカール・フランプトン(英国)をターゲットにしていた。だが、左肘の靭帯を痛めるなど、2年のブランクを作り、韓国のボクシング界の停滞などもあって、世界に辿りつくことはできなかった。だが、32歳にして映画「ロッキー」の主人公のように人生最大のチャンスが巡ってきたのである。
韓国では元WBC世界フェザー級王者の池仁珍が王座を剥奪された2007年以来、世界王者が不在だ。韓国ボクサーの世界挑戦は2015年11月にWBC世界ミニマム級王者に挑んだペ・ヨンギル以来、9年2ヶ月ぶりとなる。
だが、キムは「この状況から何か荷物を背負うという気持ちはない。私対井上だと思っている」と前を向いた。
「ボクシングを始めた時から世界チャンピオンになることを目標にやってきた」
そして最後にキムが取材のカメラに向かって熱いメッセージを語りかけた。
「急に試合をすることになったが、あまり試合が面白くないのではないかと心配せずにサム・グッドマン選手よりは遥かに期待してもらっていい」
左目上の負傷で2度キャンセルしたグッドマンは無敗のWBO&IBFの指名挑戦者。対戦してきた相手のレベルも含めて世界的な評価はキムより上だが「逃げた」「腰抜け」とSNSでバッシングを浴びている豪州ボクサーへの皮肉をこめて、パウンド・フォー・パウンドのモンスターに挑む勇気ある韓国人はそう力強く約束した。