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世界を狙っていた森武蔵が引退を決意(写真・山口裕朗)
世界を狙っていた森武蔵が引退を決意(写真・山口裕朗)

井岡一翔の”愛弟子”元2階級地域チャンプ森武蔵が25歳で引退…「ボクシングは命にかかわるスポーツ」…早すぎる決断の理由とは?

 だが、この時も試合前のスパーリングで異常が発生して、満足に準備ができず、ライト級にもかかわらず減量にも苦労して、計量前夜には、佐々木修平トレーナーが、徹夜で1時間おきに連絡をとり、ようやく朝方にリミットをクリアしたほどだった。
 試合後に再び精密検査を受けたが、めまいを止めるための決定的な治癒法はみつからなかった。血糖値を安定させるには、こまめな食事が必要で減量の必要なボクサーには厳しい。森武蔵は、この試合で踏ん切りがついたという。
「あの相手にあの程度のボクシングしかできないのならもう無理だと思いました。逆に言えば、無理をいってあの試合をやらせてもらったことでスッキリしました。悔いはないんです、病気のことばかりをずっと考える生活から解放されましたから」
 ジムに引退の意思を伝え、志成ジムへ移籍する際に相談に乗ってもらい、米ラスベガスでのイスマエル・サラストレーナーとの合宿では、何度も共にトレーニングをして、アドバイスをもらっていた井岡にも引退を決めたことを報告した。
「『引退しようか迷っている』と相談されたら、『もう辞めたほうがいい』とアドバイスしようと思っていた。あの試合でバッティングを食らったのも、そもそも思うように動けていない証拠。ボクシングは命がかかわる。武蔵が引退と決めたので安心した。第二の人生の方が長いんだよ」
 尊敬する井岡にそう言葉をかけられ涙が止まらなかった。
 まだ第二の人生にアテはない。
「僕はボクシングしか知りません。大好きなボクシングにかかわる仕事も考えていますが、何か新しい世界に飛び込んでみたいとも考えています。30歳になるまでにひとつ進んでいく形のようなものを作りたい。ボクシングにすべてをかけてきた時間を今後の人生にしっかり落とし込んで無駄にはしません」
 東京の小さなアパートで、遊びらしい遊びも知らず、ただボクシングとだけ向かい合って懸命に生きてきた“不世出のボクサー”は、病により、その才能を開花することなくリングから去る。だが、その真っ直ぐに生きた時間は、彼の第二の人生にとって大きな財産になる。森武蔵は故郷の熊本に帰るという。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)

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