
「キャンプでも1回もやったことがない」東京ダービーを制したJ1町田ゼルビアの今季初勝利の裏に黒田監督の“名采配”あり
「実はキャンプで一回もやっていないというか、本当に初めての形でした。でも、あの形で最前線に入るのは監督からの信頼を感じたし、自分の特徴を出せ、というメッセージだと思ったので、とにかく真ん中で勝負しようと」
ぶっつけ本番の形がゴールを生み出したのは後半37分だった。
敵陣の左サイドでボールを奪い、短いパスを繋いだ直後。キャプテンのDF昌子源(32)の縦パスに反応した元日本代表のDF中山雄太(28)が抜け出し、相手ゴールに背を向けた体勢から右足でトラップ。そのまま体を時計回りで捻り、間髪を入れずに利き足の左足を振り抜いてグラウンダーのクロスを供給した。
狙いは相手キーパーと最終ラインとの間。クリアするかどうかを一瞬ためらい、最後は見送った森重の背後に走り込んだ西村が、スライディングしながら必死に伸ばした右足でヒットしたボールがゴール右隅に吸い込まれていった。
実は中山は、相手ゴール前における西村の位置を把握していなかった。
「タイミング的にもコース的にも、まさにイメージ通りだった。何よりも自分が信じたあの位置に(西村)拓真が入ってきてくれたのが大きかった」
岡村に続いて後半にはDF菊池流帆(28)も負傷退場した広島戦。町田は3バックの左を務めていた昌子を真ん中へ配置し、左ウイングバックで先発していた中山を同じく左に回す布陣を組んだが、連続失点を喫して逆転負けした。
4バックを含めて、中山は長くセンターバックを主戦場としてきた。開幕戦に続いて左ウイングバックで先発させた意図を黒田監督はこう語る。
「あそこでボールが収まり、配球のレベルがひとつアップする。それで前線の西村や相馬が生きてくる。攻守にわたって中山雄太は重要な選手なので、ひとつ前のポジションで使えるのが、われわれにとってすごくありがたい材料にもなる」
もし岡村が間に合わなければ、FC東京戦では中山が最終ラインに入っていたはずだ。その場合はアシストを決めたシーンのように高い位置を取るプレーも、左利きという特長をフルに生かした絶妙のクロスも生まれなかっただろう。