
那須川天心の元世界王者モロニー判定勝利は本当に「アンフェア」だったのか…比較されたWBO王者の武居は「スタイルを変えた相手をさばいたのは凄い」と評価も両者の対戦計画は大幅変更へ
プロボクシングのWBOアジアパシフィックバンタム級王者の那須川天心(26、帝拳)と前WBO世界同級王者のジェーソン・モロニー(34、豪州)の53.9キロ契約ノンタイトル10回戦が24日、有明アリーナで行われ、天心が3-0判定で勝利した。転向6戦目にして初めて右ストレートを何発か被弾し、あわやダウンかというシーンもあったが、持ち前の身体能力で切り抜け、打ち合いに応じる気の強さも見せた。だが、試合後にモロニーは「採点はアンフェアだった」とジャッジに疑問を呈した。一方でリングでエールを交換したWBO世界同級王者の武居由樹(28、大橋)は天心の戦いを評価した。武居の指名試合の関係で両者の当面の対戦話は消滅。天心はWBO以外の世界ベルトに照準を絞ることになった。

いきなり世界の洗礼を受けた。
第1ラウンド。2分が過ぎたところで天心が、モロニーのカウンターの右ストレートをまともに被弾したのだ。サウスポーに苦手意識を持っていたモロニーは万全の天心対策を練り、ガラっとスタイルを変えてきた。
「武居戦の12ラウンド目の戦いを最初からやる」という宣言通り、ガードを固めてジャブを放ち、強烈なプレスをかけてきた。昨年5月に敗れた武居戦の最終ラウンドにグロッキー寸前まで追い詰めた超攻撃的スタイルだ。
「左フックを警戒していたが(右の)ストレートだった。一瞬パンっとなった。効いてねえよ、とも思ったが、予想外のことがあった。1ラウンドはとられたな、と思ったが、そこから立て直そうとした」とは、試合後の天心の回想。
キックボクシング時代の流儀で、これまでラウンド間のインターバルでは、立ったままだった天心が、セコンドに促されて初めてイスに座った。今回のモロニー戦に向けて「イスに座る練習もしていた」という。
サイドに足を使い、ジャブを放ち、左を上下に打ち分けながら、ポイントを奪うことに集中した。天心曰くもともとの作戦は「しっかりと距離をとる作戦、ジャブをついて、右に回って相手に追いつかせないのがテーマ」だった。
2、3、4ラウンドとその作戦を遂行。動きながら距離をキープすることでペースを取り戻した。サイドステップを踏みながらの引っ掛けるような右のフックで、モロニーを揺さぶり、意表を突く左オーバーハンドをヒットさせた。5ラウンドには左のボディショットも決めた。
そして6ラウンドにハイライトが来る。モロニーの右ストレートを再度、まともに食らい、大きくバランスを崩してダウンしかけたのだ。だが、まるで五輪の体操選手のような驚異的な身体能力で手もつかず腰も落とさずダウン危機を回避した。
「なにがなんでも倒れない。バランス力。(体をガチガチに)固めていないので倒れない」というのがその秘訣。
キック無敗の天心が持つ格闘魂に火がついた。
3ラウンド終了後に「終わらせろ!」とGO指令を受けていたモロニーが一気にラッシュを仕掛けてきたが、天心は下がることも、クリンチで逃げることもせず、堂々と殴りあったのである。
「あそこでポーンともらって引くわけにはいかねえと。初めて打ち合った。新しい可能性。打ち合って負けることもなかった。自分を一人の男にしてくれたね」
ダメージはあった。だが「メイウェザー戦が生きた」と言う。2018年大晦日の「RIZIN」でのエキシビションマッチで3階級以上も上だった無敗の元5階級制覇王者、フロイド・メイウェザー・ジュニア(米国)にボコボコにされてTKO負けを喫したが、あのパンチ力と負ったダメージに比べるとなんてことはなかったのだろう。ただ左目下はみるみる青く変色した。さすがにこのラウンドはジャッジ3人がモロニーを支持したが、天心が天心であることを1万2000人のファンにしらしめた瞬間だった。2025年のテーマは「狼煙」らしいが、まさに「狼煙」だった。
7ラウンドには強烈な右のアッパーをぶちこみ、モロニーが顎をあげた。8ラウンドには優雅に足を使い、トリッキーな“ディフェンスダンス”で元世界王者を幻惑させた。
「あそこまで動き、走り回られるとやりにくかった。トリッキーで距離がつめられず、自分の試合ができなかったのが敗因」
苛立つモロニーは、最後の10ラウンドに捨て身の勝負にきた。
天心はポイントではリードしている。もう殴り合う必要はなかった。しかし天心はあえてリスクを犯して真っ向から応戦して倒しにいったのだ。被弾もした。だが、天心も負けじと、左ストレートとボディを叩き込み、モロニーがクリンチで打撃戦を回避したほどだった。