
那須川天心の元世界王者モロニー判定勝利は本当に「アンフェア」だったのか…比較されたWBO王者の武居は「スタイルを変えた相手をさばいたのは凄い」と評価も両者の対戦計画は大幅変更へ
天心自身は、武居との比較をこう自己分析した。
「手ごたえ的にはどうなんでしょう。印象が悪いところもあったが、そこを今後は、改善しなきゃいけないもありつつ、ボクシングの型は完成しつつある。やるべき手段はわかった。モロニーを効かすこともできた。評価的には悪くないと思っている。のびしろはまだまだある。改めてボクシングは面白い」
2人は満場のファンの前でエールを交換した。
天心は「必ず世界チャンプになるんでいつかどこかで戦いましょう」と言い、武居は、「試合を延期したりしてやらなきゃいけないことがあるんで。しっかりクリアしたら、またこのリングで会いましょう」と返した。
ただ「さあいよいよ!」という熱には程遠いトーンだった。
天心は、試合後の会見で「まずはベルト。その後に武居選手と、しっかり戦って両方のベルトをかければいいと思う。どういう流れになるかわからない」と説明した。武居も「いつでもやります。ただ自分で怪我をして延期している立場上、強くは言えない。やらねばいけないことをクリアしてどこかでやれるチャンスがあればいい」と言った。
この元キックボクサー同士の因縁カードは、互いにチャンピオン同士の盛り上がりの中で実現したいというのが両陣営の構想なのだ。
その背景には指名試合というボクシング界独特のルールがある。武居は右肩の怪我で延期となった同級9位ユッタポン・トンディ(タイ)とのV2戦を5月28日(横浜BUNTAI)に行う予定だが、これをクリアすると西田と挑戦者決定戦を戦った経験があり、天心のスパーリングパートナーも務めた同級1位のクリスチャン・メディナ(メキシコ)との指名試合を9月に戦わねばならず、年内に天心の挑戦を受けるタイミングがない。天心の次戦はノンタイトル。ならば、武居を待つより、先に世界を狙い、王者同士の統一戦という大舞台で武居戦を実現しようという算段なのだ。
そうなると狙いはメインで3ラウンドKO勝利したWBC王者の中谷潤人(M.T)、比嘉大吾(志成)との死闘をドロー防衛でクリアしたWBA王者の堤聖也(角海老宝石)、IBF王者の西田凌佑(六島)の3人となる。だが、西田は指名試合を控え、リングに上がって、中谷との統一戦の実現を互いに約束した。堤は暫定王者との指名試合か、オプションを持つ前王者お井上拓真(大橋)との再戦を控える。年内に天心が、挑戦する可能性があるとすれば、来年にもスーパーバンタム級の4団体統一王者、井上尚弥(大橋)とのビッグマッチのプランがある中谷が、スーパーバンタム級への転級に向けて、王座を返上した後の王座決定戦への出場か。
最後に天心に聞いた。
――世界がさらに近づいたのか。それともまだ早いのか?
「(近づいた)感覚はある。過信するんじゃなく、今日出た結果がすべて。まだまだ可能性はあるなと思ったし、全然(世界で)通用する。今回の試合で何試合分も経験させてもらった。もっともっと強くならねばならない」
夜明け前から夜明けへ。天心が本物になる日が近づいている。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)