
日本ボクシング史に残る堤聖也vs比嘉大吾のWBA世界戦の死闘裏側⓵…ベルトの行方を左右したダウン応酬ラウンドの「10―9」採点
残り1分あった。
比嘉はラッシュをかける。そこに危険が待ち受けているとは知らなかった。
左から右のアッパーを打ち込もうと、ガードがガラ空きになったところに堤の右ストレートが、最高のカウンターとなって炸裂したのだ。
「倒したパンチは流れの中で出した。気づいたら倒れていた」
堤は試合後に比嘉の控室に訪れ「あのパンチは狙っていなかった」とも説明している。
絶えず手を出す、打ち返すーーが、堤の持ち味。
激しいトレーニングの中で、体に染み込ませたそのスタイルが、絶体絶命の場面での逆転劇を生んだのである。
野木トレーナーは「食らった瞬間は、大吾の背中越しの位置でよく見えなかった。つまずいたのか、と思った」という。
比嘉は両手をバンザイする格好でうつ伏せになってキャンバスでのびた。
比嘉陣営の誰もが「終わった」と感じた。比嘉は、カウント4ですぐさま立ち上がったのだが、野木トレーナーは、「時間が止まり、10秒にも感じた」という。
防ぐことはできなかったのか。
「倒せると思って仕留めにいった。大吾の中では頭にないパンチ。だから効くんです。大吾は2年前の大晦日でも同じことがあった。井岡一翔のレベルになると、あそこでもガードを外さないんですが…」
野木トレーナーはスーパーバンタム級の4団体統一王者の井上尚弥(大橋)が、2018年5月にバンタム級への初挑戦で、当時のWBA世界バンタム級王者のジェイミー・マクドネル(英国)を1ラウンドにTKO勝利した際、ダウンを奪った後に雑に攻めにいき、反撃の一打を食らったシーンがあったことを例として付け加えた。
残り16秒しかなかったが、堤は逆転KOを狙いにきた。
「まとめにいって終わらせたかった。詰めが甘くて…」
意識が朦朧とする中で比嘉はクリンチを繰り出しなんとか堤の追撃をかわす。
だが、このダウンの応酬となった9ラウンドが採点へ大きな影響を及ぼす。通常ダウンを奪ったラウンドは、自動的に「10―8」とつけることになっている。しかし、互いにダウンを奪ったラウンドは「8-8」とはならない。3人の日本人ジャッジは、いずれも「10―9」で堤を支持した。結果論ではあるが、もしこのラウンドが「10-10」のイーブンであれば、比嘉が勝っていた。試合後、比嘉陣営は、クレームではなく「確認」という形でJBCにこの9ラウンドの採点について「互いにダウンしたラウンドに10-10の採点はないのか。比嘉が支配している時間帯の方が長かったが」と伝えて見解を聞いた。