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9回にダウン応酬があった。王者の堤が比嘉を倒して主導権を奪い返す(写真・山口裕朗)
9回にダウン応酬があった。王者の堤が比嘉を倒して主導権を奪い返す(写真・山口裕朗)

日本ボクシング史に残る堤聖也vs比嘉大吾のWBA世界戦の死闘裏側⓵…ベルトの行方を左右したダウン応酬ラウンドの「10―9」採点

 JBCの説明は「ラウンドマストシステムゆえにお互いにダウンを奪ったラウンドでも優越をつける。10-10は基本的につけることは避ける」というものだったという。
 ダウンのダメージを比較すると明らかに比嘉の方があった。
 そのインターバルで比嘉は、野木トレーナーにこう言ったという。
「野木さんやばいです。自分は今どこにいますか。誰と試合をしていますか」
 一方の堤には石原トレーナーが「まとめて勝負にいけ!ストップさせろ」とGO指令を出した。「ポイントでは厳しいと思っていた」という石原トレーナーの指示は的確だった。だが、「次のラウンドも行ききれない弱さが出た。そこが情けない。KO勝ちができた。やっぱり悔しいです」と、堤が回想するように、比嘉は意識がないまま10、11、12ラウンドと耐え抜いたのである。
 野木トレーナーはコーナーに戻る度にハッパをかけ続けた。
「堤の方が苦しいんだぞ」
 最終ラウンドでは「前回を思い出せ!」と言って送り出した。
昨年9月のWBO世界バンタム級王者、武居由樹に挑戦した世界戦では、11ラウンドにダウンを奪いながらも、失速。12ラウンドを落とすことで、僅差の判定負けを喫した。もし最終ラウンドを比嘉がとっていれば判定はひっくり返っていた。比嘉も野木トレーナーも激闘必至の堤戦も最終ラウンドの勝負になると踏んでいた。
 だが、もう本能だけで戦っていた比嘉には野木トレーナーの声は届かなかった。
「もうヌカに釘の状態。声掛けは機能しなかった」
 最終ラウンド前にまだ比嘉は「相手は誰ですか?」と聞いた。
「そんな状態でよく平気で試合したなあと思う」
 野木トレーナーは、1971年に「世紀の一戦」と騒がれたモハメッド・アリ(米国)とジョー・フレージャー(米国)のWBA、WBC世界ヘビー級タイトルマッチのアリの姿に比嘉を重ねた。アリは最終ラウンドの15ラウンドに強烈な左フックを浴びて大の字になった。誰もが終わったと思ったが、立ち上がり、最後まで戦い続けたのだ。結果アリは判定負けを喫したが、その不屈の闘志が称えられ、両者は、結局、3度戦うことになる。
 ちなみに堤は会見で比嘉との3度目の決着戦については聞かれると苦笑いを浮かべて「できるならやりたくない。この試合を見てよくそんなことを聞けますね」と断固拒否の姿勢を明かしている。
 (堤vs比嘉の死闘裏側②に続く)

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