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堤と比嘉のWBA世界バンタム級タイトルマッチはドロー(写真・山口裕朗)
堤と比嘉のWBA世界バンタム級タイトルマッチはドロー(写真・山口裕朗)

日本ボクシング史に残る堤聖也vs比嘉大吾のWBA世界戦の死闘の裏側②…“沖縄の倒し屋”と“名参謀”のコンビは本当に引退してしまうのか…王者は次戦で井上拓真との再戦が最有力

 そしてもう一人。気になる進退問題が残った。
「野木トレ」で知られる階段を使ったフィジカルトレーニングで ジムや格闘 界の垣根を超えて、多くのボクサーや格闘家を鍛えあげてきた名トレーナーは、今回、ある決意を比嘉に伝えていた。
「負けたらトレーナーを辞める」
 それは野木トレーナーが比嘉に足りないメンタルの最後のワンピースを埋めるための捨て身の手段だった。
「たぶん負けたら今度こそ大吾は引退すると思うんです。だから…」
 結果はドロー。
 ベルトは奪えなかったが負けてはいない。
 野木トレーナーはどうするのか。一夜明けて連絡を取った。
 「勝たなければなんもない試合。その結果がすべて。勝たせることのできないトレーナーだな…との思いが、今の自分に対して強いんです」
 悩んでいた。口に出さぬ覚悟を感じた。
 おそらく比嘉の決断と野木トレーナーの進退はリンクするだろう。
 ただプロモーターは、武居戦、堤戦と続けてダウンシーンを演出し、ファンを魅了する比嘉のファイトスタイルを買っており、今回の名勝負でさらにその評価はアップした。バンタム級での比嘉の商品価値は高いのだ。
 ある大手ジムの会長は野木トレーナーに「絶対に大吾を辞めさせないでください」とラインをした。
 年内には“モンスター”と来年計画されているビッグマッチに備えて、WBC世界バンタム級王者の中谷潤人(M.T)が王座を返上する可能性があり、バンタム級の王座を巡る“サバイバル”が勃発すれば、比嘉に世界挑戦のチャンスが巡ってくる可能性は十分にあるのだ。
 野木トレーナーは「すべてを出し尽くしたのか、というと…僕のなかの大吾像はもっといい選手。しかし勝ち切れない。今のままではチャンピオンになれない」と厳しい意見を持つ。
「記憶や意識が飛び、本能だけで戦った10、11、12の3ラウンド。大吾の表情に不安がのぞいていたんです。本当に強い目ではなかった。もし現役続行するのならそこで強い目を持てる大吾にならなければならない。本当の精神の強さが出てくればチャンピオンになれるんです」
 比嘉の決断には時間はかかるだろう。ただこれだけは言える。29歳の2人のボクサーの物語はまだ終わってはいない…と。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)

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