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湘南ベルマーレの19歳のFW石井久継が同点ゴールをマーク(写真:千葉 格/アフロ)
湘南ベルマーレの19歳のFW石井久継が同点ゴールをマーク(写真:千葉 格/アフロ)

「負けない」J1に“春の旋風”を巻き起こしている湘南ベルマーレが暫定首位キープ…窮地を救ったのは19歳の“ミラモン”石井久継

 中学進学後はセレッソ大阪のアカデミー入りを考えていた石井は、稀有な才能に惚れ込んだ湘南からスカウトされて心を動かされる。実際に練習に参加し、さらに映像も繰り返し見たなかで湘南入りを決めた理由をこう語ったことがある。
「チームのために、という言葉が真っ先に出てくる雰囲気をすごく感じました。ボールを失えばみんなで奪い返しにいくところを含めて、全員がすごく楽しみながら練習をしていたし、実際に一緒にやってみて自分も楽しかった。ここでサッカーをやりたい、ここでなら成長できると思ってベルマーレを選びました」
 しかし、ひとつだけ問題があった。
選手寮などがない関係で、家族の誰かが神奈川県平塚市内で一緒に生活しなければいけない。話し合いが重ねられたなかで母親が上京して石井とともに暮らし、父親と当時高校生だった姉が倉敷市と離ればなれになって生活を続けた。
 プロになりたい、夢を追い続けたい、と望んだ石井の背中を押す家族の存在も取り上げられた「ミライ☆モンスター」は大きな反響を呼んだ。そしてU-18からトップチームへと昇格し、念願のプロになった昨春をもって、母親は倉敷市の自宅へ戻った。
これからは自分ひとりの戦いになる。プロ契約とともに、誕生日の7月7日にちなんで背番号を「77」に決めた石井は、決意と覚悟を込めてこうも語っていた。
「僕自身はサッカーだけがしたくて湘南にきたんですけど、振り返ると中学2年のころが一番ダメで。結果を出せずに苦しんでいる僕を見た家族も悲しんでいるのをずっと見てきたし、だからこそいつかは必ず恩返しをしたいと思ってきました」
 絶好調に映った湘南は、実は非常事態に直面していた。
 昨シーズンにJ1初ゴールを含めて10ゴールをマーク。迎えた今シーズンも鹿島アントラーズとの開幕節で決勝ゴールを、浦和レッズとの前節では先制点をあげていたエースの一人、FW福田翔生(23)が先発だけでなくベンチからも外れた。
 浦和戦のハーフタイムにベンチへ下がっていた福田の欠場に関して、山口監督は「今日の試合へ向けた自分の決断です」と多くを語らなかった。さらに昨シーズンにチーム最多の11ゴールをあげたブラジル出身のFWルキアン(33)も、浦和戦で相手に中指を立てる行為が確認された結果、クラブから出場自粛処分を科された。
 フォワード陣が大きく欠けたピンチ。先制も許したなかで強行スケジュールをものともせずにゴールを決めて、期待に応えた石井を指揮官も称賛する。
「一昨日に帰ってきて、きついなかでもしっかりとタスクをこなしてくれた」
 もっとも、水曜日のナイトゲームで浦和を2-1で振り切ったチームメイトたちも、中2日の過密日程でマリノス戦を迎えていた。疲れているのは自分だけじゃない。必ずピッチに立つとイメージを膨らませながら、石井は出番を待ち続けた。
「ベンチを見たらフォワードの選手は2人だけだったし、そのなかでやるべきプレーは変わらない。まだ1点を取っただけなので、もっともっとギラギラしていきたい」
 未来を期待されるモンスター候補から、愛してやまない湘南のピンチでまばゆい輝きを放った救世主へ。開幕4連勝こそ逃したものの、それでも3勝1分けと無敗をキープし、暫定ながら首位の座も守った湘南のなかで、身長170cm体重65kgの小柄な体に無限の可能性を秘めた石井が放つ存在感が、またひとつ大きくなった。
(文責・藤江直人/スポーツライター)

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