
凄い試合!同門“ライバル”那須川天心の前で日本バンタム級王者の増田陸が壮絶打撃戦を制し6回TKO防衛…「まだ通用しない」と自己批判も相手陣営は「攻撃力はすでに世界王者レベル」と絶賛
増田は無表情。まったく笑っていなかった。
「理想は一発で仕留めること。相手がキャンバスに倒れていないので満足はいかない。止められちゃったのかという感じだった」
求めているのはパーフェクトである。
だから自己採点は「50点」。
ただ「前の試合までの自分なら左を狙って倒しにいったり雑になっていたはず。フォームやバランス感覚、ジャブの距離感などを考えながら前半を戦えた」との手応えはあった。
1ラウンドからやや重心を下げてジャブをこれでもかと打ち込みコントロールしようした。だがプレスを効かしたのは、右を強打した松本の方だった。
2ラウンドに入るとその状況を変えようと増田は左のボディストレートを多用した。3ラウンドには上半身を揺らしてリズムを変え、ワンツー、ワンツースリーの3連打でペースをつかみ、松本は鼻血を出した。4ラウンドには、さらに左の強度を高めて、メリハリをつけ、ステップワークまで使い、松本を翻弄した。
「練習の中でボクシングの幅を広げてきた」
確かな進化である。
昨年11月に宇津見義広(ワタナベ)を7回TKOで沈めてV1に成功するとヒマラヤに向かった。目指した山は標高8091mのアンナプルナである。死亡率が高い危険な山として知られる。ガイドは雇ったが、シェルパの手助けは借りず、カトマンズのパカラという街から森林限界も越え富士山より高い標高4130mのベースキャンプまで3日間かけて登った。登山隊が山頂へアタックするため高地順応する場所である。
「きつかった。でも、どっしり構えられる感じはできた。今日も緊張はしなかった。絶対どうにかなるという自信をつかんだ」
23歳の松本の反撃を食らっても、冷静さを失わなかったメンタルは、そのヒマラヤ行で培ったものかもしれない。
この試合を自ら「世界へ行けるかどうか」の査定マッチだと考えていた。
現在WBA、IBF9位、WBO10位、WBC14位に名を連ねる。
「まだ通用しない。世界は思っていたより遠い」
それでも自分に厳しく合格点をつけなかった。
2年前にバンタム級のモンスタートーナメントの準決勝として当時の日本同級王者の堤聖也(角海老宝石)に挑戦したが判定で敗れた。その堤は、WBA世界同級王者ろなり2月24日に比嘉大吾(志成)を相手にドロー防衛した。
リングサイドには、同門であり、対決することはないがライバルでもあるWBOアジアパシフィックバンタム級王者の那須川天心が応援に駆けつけてくれていた。天心も同日に前WBO世界同級王者のジェーソン・モロニー(豪州)を3-0判定で破り、世界へ一歩近づいた。2人から刺激を受けないわけがない。