
誰が選ばれても賛否は必至?!東京世界陸上男子マラソン代表の3人目は東京を制した“スーパー店員”の市山翼か、大阪でトップの近藤亮太か…そして彼らは世界と戦えるのか?
残りの1人が難しい。タイムでいえば折り返し地点の運営ミスにより5~6秒のロスがありながら、大阪マラソンで日本歴代5位の2時間05分39秒をマークした近藤亮太(三菱重工)だ。終盤は小雪が舞い、向かい風もあったなかで、優勝にあと一歩と迫った走りも十分に評価できるだろう。
もうひとりの候補は有力選手が多数出場した東京で日本人トップを勝ち取った市山だ。気温20度を超えたなかでも終盤ペースを落とすことなく、日本歴代9位の2時間06分00秒で走破している。
キャリアを考えると近藤は大阪が初マラソンで十分とはいえない。そのあたりも選考の要素となるのだろうか。一方の市山はセカンドベストが2時間07分41秒で、MGCの出場経験もある。暑さに強いのも東京マラソンで印象づけた。
雪の大阪か、暑さの東京か。天候だけでなく、コース、出場選手の顔ぶれ、レース展開が異なるため〝ジャッジ〟は非常に難しい。日本陸連はどんな選択をするのだろうか。
東京マラソンの記者会見に登壇した日本陸連の高岡寿成シニアディレクターは、「コンディションに関しては、大阪は冷たい雪で終盤は向かい風、今日は暑さを感じるレースになりました。現時点で誰が(有力か)ということはありません。選考委員のメンバーの方々と詰めていきたいです」と明言は避けたが、近藤、市山のどちらが選ばれても賛否が起こりそうだ。
そのなかで日本のマラソン代表は東京世界選手権でどこまで戦えるのか。今回の東京マラソンを見る限り、世界トップクラスとの実力差は小さくない。期待値の高かった赤崎と池田は第2グループで高速レースに挑むも、終盤は失速。10位に入った市山も海外勢と真っ向勝負したわけではなかった。
暑さのなかでも優勝タイムは2時間03分23秒で市山とは2分37秒差。距離でいえば900mほどの大差をつけられている。
高岡シニアディレクターは「昨季のJMCシリーズで2時間06分30秒を切った選手は1名でしたが、今年は11名に増えました。どのようなコンディションでも2時間5~6分台を出せたのは力がついているように感じます」と日本マラソン界のレベルアップを評価した。その一方で、「今日のレースで世界との差を実感できたんじゃないでしょうか。今後、誰かが世界で勝負することを見据えたレースをしてくれるようになればと強く思っています」と世界との差についても言及した。
2028年のロス五輪では、『MGCファストパス』(設定記録2時間03分59秒を突破した選手で最速1名が2027年3月に内定する)が導入される。今季のマラソンシーズンは好タイムに沸いた日本だが、難コースで行われたパリ五輪はメダルを獲得ラインが2時間07分00秒だったように世界のレベルも急上昇している。世界大会でメダルを獲得するには2時間3分台の実力が必要不可欠。微妙な好記録に浮かれることなく、世界と真剣に勝負するんだという〝覚悟〟を持って臨んでほしい。
(文責・酒井政人/スポーツライター)