
壮絶決着!なぜ拳四朗は最終回に「覚悟を決めた前進」を続けたユーリに逆転TKO勝利できたのか…“名参謀”の頭脳的戦術変更が2階級WBC&WBA統一王者誕生の転機
「なんていうか、判断がわからずに、ちょっとふわふわした感じ。スイッチがバチっと入る感じがなかった」
6ラウンド、7ラウンドと拳四朗は距離をつめて打ち合った。壮絶な打撃戦である。だが、ユーリは、巧みなブロッキングを使い、1発を打たれたら1発、2発を打たれたら2発、右を浴びたら右を返す。その勇気あるファイトに拳四朗は本来のリズムとテンポを作れない。
拳四朗は「心が折れかけた」と葛藤があったことを明かした。
「打っても、打っても打ち返してくる。どう対応したらいいかわからなかった」
加藤トレーナーが恐れていたのはそれだった。
過去に4クールもユーリとスパーリングで拳を交えた。拳四朗が一方的に圧倒していたが、加藤トレーナーは「こちらの良さを知っているところが怖い」と警戒していた。寺地会長と三迫会長も「スパーと本番は違うのがボクシング」とユーリの変貌を想定していたが、その想定以上のファイトをユーリはやってのけていた。
「あそこまで覚悟を決めて前へこられると(作戦が)ぶれざるを得なかった。判断が難しかった」
だが、その流れを変える戦術変更を加藤トレーナーは決断した。
「変に打ち合ってもポイントを取り切るのは難しい。中盤あたりで、その選択をしたが難しかった。後半でタイミングをずらそうと」
8ラウンドの開始前に加藤トレーナーはこう指示を変えた。
「足でタイミングを変えろ」
拳四朗に殴り合いをやめさせ、距離をとり、出入りのステップワークでパンチを放つ際のタイミングを変えることを指示したのである。
「練習で、ああいう戦いはやっていたので、その通りやった」
拳四朗に戸惑いはない。
ジャブでリード、ユーリが来れば、そこに右アッパーを放ち、アウトボクシングで、ユーリの前進に歯止めをかけて流れを変えてみせたのである。
加藤トレーナーがさらに詳しく戦略の裏事情を明かす。
「ユーリ君は、こっちのパンチを、まず受ける気だった。そこから打って打たれて、打って打たれてを続けられた。スパーでこっちのタイミング、良さを知られていたんでその覚悟を決められたんだと思う。5,6、7ラウンドと、そこにまともに打っていき跳ね返された。だからこっちのタイミングを変えるしかなかった。タイミングをずらすため、ステップワークを使ったんです。結果、それが後半は生きて、最終ラウンドのアレにつながった。ギリギリの判断が良かった」
まさに加藤トレーナーの戦術変更と、それを実行できた拳四朗の経験と引き出しの多さが激闘の転機になったのである。
ユーリの公開練習を見たとき、加藤トレーナーは、勝利のポイントについて「ユーリを大きく見せないようにすること」と禅問答のようなコメントを残していた。その種明かしを求めると「大きく見えましたね」と言って苦笑いを浮かべた。
「あのプレスを跳ね返してコントロールすることが大きく見せないってことだったんです。でもユーリ君が素晴らしかった。彼が決めた覚悟。それがすべてです」