
なぜ巨人のマー君は5回1失点で586日ぶりの日米通算198勝をマークすることができたのか…「感謝しかない」甲斐拓也が幻惑のリードで引き出した新スタイルに見えた金字塔の可能性
2回は三者凡退。3回には一死二、三塁から上林に犠飛を許して3-1とされたが、4回は再び板山、カリステ、村松を三者凡退に抑えて4-1で勝利投手の権利のかかる5回を迎えた。当然、意識をしたのだろう。先頭の木下を歩かせ、続く代打の辻本は投手ゴロに打ち取ったかに見えたが、その打球を弾いてしまい、併殺は取れず一死一塁となり、続く岡林にライト線に二塁打を浴びた。
一死二、三塁で上林に対してスイッチが入った。
初球に147キロ、球数が88球目となる2球目にこの日最速の149キロ。たった2球で追い込んだのである。3球目の149キロのストレート、4球目の148キロのストレートはいずれもボールになり、結局、四球で歩かせ、満塁となるが、次打者の細川をカウント1-1からのスライダーで三塁への併殺打に打ち取り大ピンチを脱出。マー君は雄叫びをあげた。
「頼むからサード飛んだ瞬間に2つ取ってくれというふうに祈っていました」という。
現役時代に阪神、ダイエー(現ソフトバンク)、ヤクルトでプレーした評論家の池田親興氏は、甲斐の配球を指摘した。
「主演マー君、演出甲斐と言えばいいのか。甲斐がリードで田中を良く見せた。1回の石川に対しては。3球続けて、低めに変化球を見せておき、変化球を意識させてから最後はインサイド勝負。石川はツーシームが155キロくらいのボールに感じたのではないか。5回は一死二、三塁で4球続けて上林にストレートで勝負し、それを次打者の細川に印象づけておいた。細川には、一転、スプリット、スプリット、スライダーという配球。田中の持ち球のすべてをそのポテンシャル以上に中日打線に印象づけるような幻惑のリードを甲斐がし、田中が持ち前の制球力と投球術でそれに応えたんだと思う」
さらに池田氏はこう続ける。
「楽天時代のマー君は、あれだけの実績を持ってチームに帰ってきただけあって、誰も何も言えなかったんだと思う。裸の王様であり、孤独でもあったんじゃないか。でも甲斐は、侍ジャパンでマー君と共に戦ったメンバーで、互いにリスペクトしている。甲斐はソフトバンク時代から投手と非常にコミュニケーションを密に取れる捕手。マー君は、全盛期には程遠いが、昔を取り戻すのではなく新しいスタイルを追求しているんだと思う。そこに甲斐という存在がマッチした。オープン戦では、ストレートも140キロ中盤で、腕がふれず、変化球では緩んでもいたが、スイッチを入れて149キロが出れば十分だし、変化球でも腕が振れるようになっていた」