
6.19大田区で「むちゃくちゃ勝算がある」という佐々木尽は本当に日本人初のウエルター級世界王者になれるのか…36年ぶりの日本開催を実現した大橋秀行会長は「倒すか倒されるか」
佐々木がさらに言う。
「結構、これまでも正夢になっていることがたくさんあるんですよ。聞いたところによると、夢って、自分の前世の記憶が呼び戻されるらしいんです。僕はきっと生まれ変わる前は、世界王者だったんですよ」
究極のプラス思考。
その“大番狂わせ”を起こす根拠もある。
米ラスベガスのイスマエル・サラス・トレーナーのジムで、メイウェザーの秘蔵っ子のカーメル・モートン(米国)やキューバなどのトップアマと40ラウンド以上のスパーリングを行い、進化のきっかけをつかんだという。
佐々木の一番の課題はディフェンス。そして21戦はしているが、まだ23歳で“引き出し”も少なく、駆け引きという点でも物足りない。
だが「まっすぐ攻めすぎている、打ったときのディフェンスがないなどの対処方を聞いたりして勉強になった。あと2か月でレベルアップできると思う」という。
世界戦を実現したことが終わりではない。
「世界が決まったのがスタート。勝ってもゴールじゃない。扉がやっと開ける。そういうイメージ」
もし世界ベルトを手にできれば、リング上で「ガルシア!やろうぜ!」とマイクパフォーマンスを行うことも計画中。5月2日にニューヨークのタイムズスクエアの特設会場で、ドーピング違反で1年間の出場停止処分を受けていた“問題児”ライアン・ガルシア(米国)はウエルター級に階級をあげて再起する。またIBF&WBAの統一王者のジャロン・エニス(米国)も佐々木が対戦を熱望するスターボクサー。
それでも「余裕がない」が本音だろう。
最後に。
会見では、中屋会長が報道陣に佐々木が「一緒に歴史を変えましょう」と書いた手書きのメッセージのメモにオリジナルのステッカーと米国土産のチョコレートをひとつぶ添えて配った。200枚以上のメッセージを佐々木が自分で書いたという。
世界戦の記者会見を取材して、かれこれ30年以上になるが、こんなメッセージをもらったことなど一度もなかった。
佐々木は会見で、「今回は2番目に幸せ。一番目はこの世に生まれてきたこと」とも言った。会見場の最前列には両親が揃って座っていた。母に「あの言葉を聞いて涙が出たでしょう」と聞くと「驚いて声が出なかった」と感動していた。
そういう心優しいファイターにボクシングの神様は“世紀の番狂わせ”というプレゼントを用意してくれているのだろうか。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)